第76話 魔王、完全回復
戦っていた場所から遠く離れた場所へ来た。
勝利して生き延びたのはいいけど傷は深い。
このままだと三人とも出血多量で死んでしまう。
「回復の薬とかは…」
「ない…アニモンアで仕入れておくべきだったな」
血の臭いに誘われて肉食の魔物が寄って来た。
このままだと本当にヤバい…
「ブレイズ、あんたの障壁で守って…」
「クルミとの戦いで力を使い果たした。唱えても障壁は出せない」
「マジでピンチじゃん…」
いやさあ、確かに更新頻度が最低月一回になって、あぁこの作品を書くのがつらくなったんだろうなぁっていうのは分かってたよ。
分かってたけどね、いくらなんでもこれはないじゃん。
強敵四天王を倒した後に披露して野生生物に食べられて終わりとか、酷いじゃん。
しかし魔物達は何かを見つめると、一目散にこの場から去って行った。
「酷い傷だな。今治してやる」
魔物達を怯えさせた何者かはそう言って私の身体に触れた。
すると痛みが引いていき、失ったはずの左腕が元に戻っていた。
「ブレイズ、大丈夫か」
「魔王…!」
「よく頑張ってくれたな。おかげでこの通りだ」
私達を救ったのは魔王カーナだった。
かなり久しぶりに顔を見るし、そもそも最初に会った時もそこまで会話してなかったからパッとしないなぁ。
「お前は…」
「俺はレイアストに呼ばれてきたアクトナイトだ。メアリスって言えば伝わるか…」
「彼女がいないということは…そうか…」
「…嘆いてはいられません。俺達は勇者セスタを倒さなければならない」
「そうだな…うん、そうだ。忘れてない…」
カーナは涙を流していた。
魔王って聞くと強くて厳格で、血も涙もないってイメージがあったけど…
称号が付いてるだけで彼も魔族。
この世界を生きている人なんだ。
「勇者の弟子は一人を除いて全員殺しました」
「なら…もう他にやることはない。俺達四人掛かりなら、セスタを倒せるはずだ」
「ねえ、セスタは今どこにいるの?」
「アイクラウンドだ。治安矯正という言葉を掲げて魔族狩りを始め、国民達もそれに賛同するようになった」
「…セスタを倒したとして、アイクラウンドには魔族が住める場所は残ってるの?」
「ないな。きっと彼女の意思を継ぐものやこれに乗っかって商売する人間が現われ、アイクラウンドは遠くない内に人間の国に変わってしまうだろう…だがそれについては問題ない。今まで俺はアルストロメリアという大陸で身体の回復をしていたが、そこには既に滅んで誰も住んでいない国があった。行き場のない魔族達はそこへ移住させる…負けたら殲滅され、勝ったとしても移民。あの時の俺にあいつを倒せる程の力が残っていれば…」
「自分を責めないでください。それにサイミアとの戦いの後、セスタとあなたの間には再戦まで一切関わらないための期間が設けられた。それをあいつは破ったんです」
「国が落ち着くまで待つように頼んだのは俺だ。忌々しき魔王との口約束が信じられなかったのだろう」
魔王は地面に転移の魔法陣を、完成ギリギリのところまで描いた。
「疲労が残っているはずだ。しばらく休んだらアイクラウンドへ飛んで、今度こそセスタを倒すぞ」
とうとうセスタとの戦いだ。
魔王は万全の状態だし、きっと大丈夫。