第73話 自暴自棄…?
翌朝、目を覚まして鼻栓を外した。
昨日まで漂っていた悪臭はすっかりなくなっていた。
「汗かいちゃった…」
朝風呂へ入りに浴場へ。
昨日は入れなかったから、ブレイズ達に会う前にちゃんと綺麗になっておかないと。
「ふう…」
早朝の女湯には私の他にも何人かお年寄りがいた。
親しく会話している様子を見るに、ここへ来た旅行者だろうか。
昨日までずっと異臭が漂っていたのに、よく来ようと思ったわね。
しばらく湯に浸かってボーっとしていた。
するとだんだん、お年寄りの会話が喧しく感じたので、露天風呂の方へ逃げて来た。
「あ…ドラゴンだ」
翼竜が空を飛んでいた。
手綱を付けられているということは、あれはテイムされて飼いならされた個体だ。
背中にはあれを駆る騎手が乗っているのだろう。
「どこか遠くに行きたいな…」
故郷で指名手配になって逃走を始めてからずいぶん遠くまで来た。
だけどそれは戦いのため。
戦いのこととか全部忘れて、平和な場所へ逃げ出したかった。
「ま…無理か」
のぼせてしまう前に風呂を出た。
ブレイズ達は宿の浴衣からいつもの服に着替えて、出発の準備を終えていた。
「おはよう二人とも!私、腹括ったわ!」
「おう元気だな。んで何を?」
「クルミとは真っ向勝負で戦う!」
これ以上先延ばしにしたって、抱えているストレスが膨らみ続けるだけだ。
だったら早く挑んでしまおう。
負けてしまうだろうけど、それも実力が足りずに仕方なかったってことね。
「クルミの居場所は分かるのか?」
「街の占い師にでも尋ねればいいでしょ。ああいうのって良くない時こそ当たるんだから」
私達は宿を出て、街唯一の占い屋へやって来た。
どうやらこの街の住民はあまり占いをしないようで、すぐに順番が回って来た。
「いらっしゃい。一体なにを探してるんだい?」
「人。クルミっていうまだ成人してない女の剣士。この国にいるはずなんだけど」
料金を払うと、占い師の女性が水晶を見つめて何かを始めた。
「ポロリンペロリンプルンプルン!」
卑猥に聴こえる呪文ね…
それとも私の頭が真っピンクなのかしら。
「ピクピクパイパイ…見えた。恐ろしく強い剣士だね。もしも次会ったら戦いは避けられない…いや、戦いにいくつもりかい?私は戦わないから人を見ただけで強さを測れるってわけじゃないけど、あんた達三人じゃ敵わないわよ」
「それでもやんなきゃいけないのよ」
「可哀想ね…この先も苦労するわよ。この店を出て左を向いて真っすぐ進んだら街の南口よ。そこから真っすぐに進めば、この剣士と会えるわ」
それだけ聞ければ充分だ。
店を出た私達は占いの通りに道を選んでクルミとの再会を目指した。
勝算はないのに、足取りが重く感じることはなかった。