第71話 クルミの実力
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
私とクルミの放った突きが同時に地面に命中したと思ったら、物凄い勢いで地面が削れてしまった。
気付けば、地下深くの空間に立っていた。
「ありゃ…」
「突きで地面を掘って穴を開けたんです…ってお互いこれくらい出来ますよね」
「出来んわァ!剣で穴掘りとか聞いたことないわ!」
そもそもクルミが叫んだホークダーツは弓で繰り出す必殺技の名前だ。
この子は放たれた矢と同等の速度で地面を突いたんだ。
超ショック…
自分より若くて強い剣士なんていくらでもいるけど、こんなにも大きな力を持った子がいるだなんて。
「そんなことよりもあいつを見てください。ブランジェスフィッシュ」
フィッシュと呼ばれ剣先で指されたその魔物は魚ではなくモグラだった。
「フィッシュじゃなくてモールじゃない!?」
「眠っている魔物は睡眠剤を投与してから毒薬などで仕留めるのが定石ですが…ここはせっかくです。私の実力をご覧にいれて差し上げます!」
「必要ないから!あんたが強いのは充分に分かったから!おいコラやめろ!」
この女!
私の言葉も聞き入れないで石を投げやがった!
ベースボールプレイヤーもビックリの時速100キロはありそうな石を喰らったブランジェスフィッシュは目を覚まして怒号をあげた。
私とクルミを交互に見てから、どちらが攻撃したのか察したモグラがクルミの方に吠えた。そして壁に跳ねたかと思うと、凄い速さで穴を掘って姿を消した。
「ちょっと何逃がしてんのよ!?こういう地の底でああいうモンスターは見えてる内に倒した方がいいって習わなかったわけ!?」
「教本の71ページに載ってましたね、覚えてますよ。しかし教本に載ってないやり方だってあるわけですよ」
クルミは私を抱えてその場から飛び跳ねる。
すると音も立てず、モグラが足元から飛び出して来た。
「嘘、近付いてたの…全然気付かなかった」
「それで私が思いついたのがこれです」
今度は天井を掘ってモグラが逃げる。
クルミは再びそれを見逃すと、私を降ろして剣を後方へ引いた。
「…そこだ!」
見えない敵の位置が分かるのか、クルミは走り出した。そして壁に向かって必殺技を放った。
「天草ノ一閃!」
一見すると地味な光景だった。
土壁に剣を勢いよく刺してゆっくりと抜いただけ。
しばらく待っても、壁が崩壊を起こしたりとか派手なことは起こらなかった。
「あの…モグラは?」
「倒しましたよ。ほら」
穴から魔物の血のような物がドロドロと流れて来た。
中がどうなってるのか想像したくもない…
「…っていうか私必要なかったじゃない!」
「いやー誰かいないとやっぱり不安で…もしも死んだ時に看取ってくれたり伝えてくれる人がいないと安心できないんですよ」
「その実力ならそんな心配ないと思うけど…」
「いえいえ、私の師匠は倍なんて言葉じゃ表せない程強いんですけど、それでも倒すにはまだ力が足りない相手がいるとかなんとか言ってて…もう違う次元の話過ぎてついていけないですよ。あはは」
何者よそいつ…
勇者セスタでもあるまいし…
「…ん」
嫌な予感がした。
まさかそんなはずはないだろうけど、ゼロとは限らない。
聞いてみよう。
違うならそれでいいんだから…
「もしかして…あんたの師匠って勇者セスタ?」
「あぁ!師匠の事知ってるんですか!?」
うわああああああああああああああああああ!?
運命って残酷だあああああああああああああ!!
「顔色が悪いですよ!大丈夫ですか!?」
アクト…
ブレイズ…
どうやら私達、今度もとんでもないやつと戦わなきゃならないらしいわよ。