悪祓い
シエル達の必殺技によってマユの肉体は呆気なく消滅した。
しかしあいつは肉体から魂を切り離し、別の場所にある肉片に宿ることで再生してしまう。
その魂を仕留めるのが俺の役目だ。
「魂はどこだ…」
ケンソォドソーダーは絶大な威力を持った一撃だが、斬るという性質上砂埃などが舞うことはない。
遮る物がないこの地で、まず魂を捉えなければならなかった。
誤算だった。
マユの巨体は邪気の力で構成されていたんだ。
だから肉体を滅ぼした今、この場所には刺してくるような邪悪な残留思念で満ち溢れている。
「アクト!」
「待ってろ!」
それでも絶対に逃がさない。
この作戦の後であいつを逃したら、今度こそ抵抗しようのない攻撃をされる。
「…つっ!ああああああああ!」
逃がさない!
その気合いで邪気を吹き飛ばす。
すると俺達のいる位置から遠ざかる魂を感知した。
「見つけた!」
地面を蹴って逃げている魂へ接近する。
視覚で捉えることは出来ないが、俺は間違いなくマユの魂に近付いていた。
この魂を俺の剣で斬る。
剣の鍔には今、マテリアルというアイテムが埋め込まれている。
祓いの想いを込めたエクソシズムマテリアル。
これが付いている今、アクトソードは邪悪な魂を斬ることが出来るのだ。
「逃がすかよ!」
しかしこうして作り出したマテリアルは一定時間が経つと消えてしまう。
力が少ない状態で作ったこいつが存在していられるのも、ほんの僅かな間だけのはずだ。
「追い付いた!」
そして国外へ逃げようとしていたマユの魂に追い付いた。
「救うべく浄化の斬り祓い!エクソシズムスラッシュ!」
俺の刃は空を斬った。
しかしそこには魂の感触があった。
俺は今確かに、この剣で人間の魂を斬った。
生き返ろうと必死に踠いていた人の望みを完全に断ったのだ。
シエルとブレイズは勇者セスタの事で一杯だ。
きっともうお前を恨んじゃいない。
だからどんな形で生まれ変わるにせよ、もう悪い事はするなよ。
またあいつらが斬りに行くぞ。
マユは魔族を憎んでいたとシエルから聞いた。
憎んだのは何故か?
そうなるように教えられて育ったのか、それとも過去に一生治らない傷を負わされたのか。
俺はシエル達の元に戻り、マユを祓った事を伝えた。
レイアストという人物の仇を討ったが、二人はその事に触れようとしなかった。
「残るは一人か」
「ひとまずこの戦いで罠はパー。一旦近くの町で休息を取りましょ」
「敵が分からない以上、対策のしようがないな…」
おそらく、罠などの小細工はもういらないだろう。
しかし…罠で焼き殺したやつ、魔族に強い偏見を持っていたマユ、そして魔族であるフラリアを庇ったクロウ。
どうせ敵ならとびきりの屑野郎がいい。
もしもそれとは正反対のやつが来たら、こいつらは戦えなくなるだろう。