第67話 敵の眼中
見張りを始めてどれほどの時間が経過しただろうか。
始めた頃よりも風の勢いは増し、地面に突き立てた鉄柱を掴んでいないと立っているのもやっとな状態だった。
「おいシエル!このままだと風に乗って何かが飛んでくるかもしれない!弱まるまで地中に潜ってろ!」
「だ、だけど…」
「危ない!」
アクトはオーダーシースから剣を抜き、飛来した大岩をバラバラに切り分けた。
凄い…岩をスッパリ切れる剣もだけど、私に破片が当たらない様に軌道を変えるアクトの技量もだ。並みの剣士に出来ることじゃない。
「油断すんなよ。そりゃあ敵の攻撃に比べたら岩なんて大したことないけど、どっちも当たれば痛いんだからな」
「ありがとう…ってねえ!いくら何でも大岩が飛んでくるのはおかしくない!?」
「ん…そう言われるとそうだな!?風速どうなってんだ!」
嫌な予感がした。
アクトはブレイズを叩き起こしにアジトへ降りた。
その間にも警戒を強め、殴殻斬刃の等剣を腰のホルダーから抜いて構える。
そして襲い来る大きな物体を弾き返して身を守った。
「この禍々しい魔力は…マユ!あんたが来たのね!」
「以前の仕返しに来たわよ!この森に罠を仕掛けてたみたいだけど、そもそもこの場所を戦場に選んだことが間違いなのよ!」
周りを見ると風に流される木々が並んで壁となり、この台風の中に私達を閉じ込めていた。
「周りで木が飛び回ってるけど…ここって台風の目じゃないの?」
「馬鹿ね!この台風はアルマの国に入る前に魔法で作った人工災害よ!目なんて安全地帯はないわ!あんた達はずっと!私の攻撃を喰らってたってわけ!セイルを殺した罠がどれほどの物だったのか知らないけど、壊してしまえばなんてことないわ!」
そんな気がした!
数日間も停滞してる台風なんておかしいもの!
「シエル!どうかしたのか!」
「ブレイズ!マユがどこかにいる!」
「ならば…忍法!音鼓知深!」
ブレイズは刀を抜いては刃を爪で弾いた。
そんなまさか、刃にデコピンしただけで敵の位置が分かるわけが…
「見つけた!敵はこの台風の真上!」
「見つけたの!?忍法って凄いわね!」
敵が作った台風に捕まって絶体絶命かもしれないけど、2人目に来たのがマユで良かった。
今の私達にあるのは、こいつを倒す為の罠だけなのだから。