第66話 雨宿りのひととき
レイ・スノビー撃破から数日後。
罠を仕掛けた森に台風が到来し、私達は地中を掘って造ったアジトで過ごしていた。
「台風が過ぎたら罠を仕掛け直さないとね…」
「それにしてもいつまで停滞するつもりだ…?」
アクトが言ったように、台風は2日ほどこの国に停滞していた。
「ったく、どうしてこんな大事な時に台風来るかなぁ~…ってそろそろ交代の時間か」
アクトが土のスロープを上がって地上に出た。
それと入れ替りで、今まで外の警戒をしていたブレイズが降りて来た。
「風が強まって周囲の木々が折れている。このまま風の勢いが増せば罠は全てダメになるだろう。そうなるとここを利用しての迎撃が出来なくなる」
「それホント?」
そうなると話が変わってくる。
正体不明のもう一人はともかく、マユはこの地で仕留めておきたいのだ。
きっと以前のようにはいかない。
マユは強力な魔法を使って、私達を倒しに来るはずだ。
それに倒したとして、あいつは別の場所に残してある肉体の一部に魂を移して再生してしまうのだ。
「警戒するのはいいがあまり気負うな。心が持たないぞ」
「分かってる」
「…フッ」
「ちょっとなによ」
「元いた世界の事を思い出した。お前は関係ない」
「そういえばあんたって別の世界から来たんだっけ。どんな世界だったの?」
ブレイズが別世界の人間だということは、孤児村にいた時にカジヤンから聞かされた。
彼が元の世界について話すのは、これが初めてだった。
「俺は東京という都市に住んでいた。あの世界には魔法や魔族などの概念は絵空事の中にだけ限られた存在だった」
「トウキョウ…漢字は?」
「方角の東に単位の京。それで東京だ」
「もしかしてブレイズって名前は…」
「本来の名前ではない。俺をこの世界に呼び出した教団の人間に付けられたコードネームのような物だ。山桐進太郎、それが俺の本名だ」
「あんたそんな名前だったの?どうして黙ってたのよ」
「言う必要がなかったからな」
ブレイズは土のベッドで横になった。
「交代の時間まで休む」
「やっぱり私も見張りするわ。一人だけ雨に濡れない場所にいるのは気が引けるもの」
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時間が経ち、私はブレイズを起こさないようにスロープを上がって地上に出た。
「おぉブレイズって、どうしたシエル。何かあったのか?」
「今度は私の番よ。アクトは中に戻って休んでなさい」
「だけどこんな風の中で女を立たせておくのは…」
「私だって冒険者よ。見張りなんて今よりも酷い環境で何度もやってきたわ」
「そうか…分かった。それじゃあ頼むよ」
見張りを任せたアクトはスロープを下っていった。
「…にしてもいつになった通り過ぎるのかしら」
自然まで敵に回ってしまって、もしもこのタイミングで敵が攻めてきたら一溜りもない。
私は辺りを警戒しながら、台風が過ぎ去るのを祈った。