第65話 ハント
誰も寄らないはずの森に侵入者が現われた。
それはかつて私が倒したはずのレイ・スノビーという男だった。
彼を仕留めるための罠はここから離れた場所に設置してある。
まずはその地点まで彼を誘導しなければならない。
「あいつヤバいな…この隠密コートがなかったら気付かれてるぞ」
「だったら一度戦った経験がある私が行く。二人は誘導地点で迎撃の準備を」
「了解した。行くぞアクト」
二人が離れていく。
私は敵から目を離さず、攻撃の隙を待っていた。
罠は設置したが、一撃で仕留められるならそれがいい。
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レイはまるで散歩するように森の中を進んでいる。
一見すると隙だらけだが、下手に手を出したら反撃でやられてしまう。
こうなったらいっそ真正面から挑もうと、私は姿を見せた。
「一人目みーっけ。まあ気配はずっと感じてたけど」
「ここであんたを倒す!」
ナイトモードの等剣を構えて、私はレイに挑んだ。
「何で姿を見せたの?不意討ち出来たかもしれないのに」
「殺気駄々洩れだったくせに」
連続で攻撃を繰り出しながら相手の会話に応じる。
これでこいつは、この戦いは自分のペースで動いていると思うはずだ。
「攻撃が当たらないよ。武器が合ってないんじゃない?」
「カジヤンの造った武器にケチ付けるな!そっちこそ、潜在呪文を使っておかなくていいの?」
「当たらない攻撃を防御する必要ないでしょ?」
本気で攻撃しているが一振りも当たらない。
実力差があり過ぎる。
「チッ!」
煙玉を袖から落として視界を遮り、敵とは反対方向に走り出した。
「おやおや、逃げるのかい?」
「クソッ!」
ここまでは予定通りだけど…悔しい!
前に戦った時よりも私は強くなった。
それなのに勝てないなんて!
「もっと私が強ければ…!」
「鬼ごっこかい?戦いの方が好きなんだけどなぁ…」
レイは本気を出さなかった。
全力疾走すれば私を殺せたはずなのに、彼はベラベラと喋りながら後方で走っていた。
後悔するといいわ。
あんたはここで全力も出せずに死ぬのだから。
「もしかして罠?」
「今だァ!」
合図すると足元に大きな穴が現れ、私達は落下を始めた。
「なにこれ?落とし穴?」
「シエル!掴まれ!」
地上からブレイズが縄を投げ入れる。
爆薬を利用した加速装置が発動して、縄は落下していた私の元に追い付いた。
それを掴んで私は壁を駆け上がる。
地上を見上げて走っていると、点火されたマッチ棒が穴の中に落ちていくのを見た。
「急げシエル!」
そして穴の底からドボンッ!と、無臭で可燃性の液溜まりにレイが落ちた音が聴こえた。
油の中で呪文は唱えられないはず。
あの岩の鎧で防御することは不可能だ!
「早く!」
アクトの手を掴んで私は地上へ。
その直後、穴の底で大爆発が起こり、火柱が上がった。
「凄い勢いだな!」
「当然よ!カエンガエルのガマ油を使ったんだから!」
10秒間の間、火柱が上がった。
それから熱が収まると、私達は縄を降ろして穴の底へ。
底には岩に包まれた人間の焼死体が倒れていた。
「呪文は唱えたけど、熱に耐えられなかったって感じね」
「こうして死体を見ることが出来て安心した。このまま埋めるぞ」
ブレイズは万が一、蘇生魔法などを使われた時の事を考慮して遺体をバラバラに。
下から順に足、胴、腕、頭と分けて、レイ・スノビーを埋めた。
「とりあえず一人目撃破ね…上手くいって良かった~!」
「しかしこれでもう、罠は通用しないだろうな。レイ・スノビーとの連絡が取れなくなったと気付いた敵は警戒して動くようになるぞ」
「まあ別にいいだろ。正体不明のもう一人はともかく、あのマユっていう魔女に罠は通じない。一応設置したあれも気休め程度に考えといた方がいいだろ」
残る勇者の弟子はあと二人。
しかし楽にはいかなそうだ。