第7話 クワァーバルのエンチャント
斬木のヤノーコを倒すため、土カスこと瓶詰め大地の精霊クワァーバルと協力することになった私。
今は木をひたすら倒して進むヤノーコを追いかけていた。それにしても通った場所の木が全て倒されて、本当に台風が通った後みたいだ。これがタイフウドオリカマキリの力…
「それであいつ、どうやって倒すのよ。手当たり次第に木の伐採してくれちゃってるけど」
「俺の準備は完了した。まずはこれ以上木を倒されないためにあの鎌を壊すぞ。やつの注意をこちらに引くんだ」
「それっていきなり戦うってことよね!?無理でしょ!」
「俺の力があるから問題ない。急げ、被害が拡大しているぞ」
注意を引くったって…とりあえずそこら辺の石ころでも当ててみるか。
「えいっ」
カツンッとカマキリの背中に石を当てる。すると足を止めて、私達のいる方へ身体の向きを変えた。
「それで、これからどうするの!」
「俺の力をお前にエンチャントしてある。戦ってみろ」
言っている意味がよく分からなかった。そしてその間にも鎌を引いて、ヤノーコは攻撃を放とうとしていた。思わず私は剣の側面を向けて防御を構える。すると正面の土が隆起し、大きな壁が出来上がった。
ヤノーコが鎌を打ち振るう。だが土の壁によって攻撃は止まり、私は切られずに済んだ。
「お前の意思に合わせて土は動く。そのまま攻撃してみろ」
防御の構えを解くと同時に壁が崩れる。私は視界に入ったヤノーコへの攻撃をイメージ。剣を振り上げると、その足元から刃のように土が隆起し、ヤノーコを宙へ打ち上げた。
凄い能力だ。まるで土の魔法を使えるようになったみたい。
「あっ!ヤノーコのやつ、羽根を広げました!あのまま逃げるつもりですよ!」
「シエル、俺が持っているのは土ではなく大地の力だ。他にも攻撃に転じれる力があるはずだぞ」
「あいつを打ち落とすには…」
土の刃がゴテゴテとした円錐台のような形に変わる。そしてそこから飛び出した大岩が、空へ逃げようとしていたヤノーコの羽根を破壊した。
「火山弾だあああ!」
「馬鹿野郎!近くに街があったらどうするつもりだ!よく考えて攻撃しろ!」
いや~それにしても便利な力だ。私1人でユニークモンスターを手玉に取ってるんだもんなぁ。もう普通にSランク冒険者ぐらいのレベルなんじゃないかな。
「それじゃあトドメを決めるかな…えいっ!」
地震を起こして地割れを起こし、そこにヤノーコを落とす。そこへ先程形成した火山を傾けて、熱々の溶岩を流した。
「喰らえー!」
ヤノーコは溶岩の川に飲み込まれた。最初は脱出しようと必死に足掻いていたが、蓋をするように岩で橋を造ると、そのまま沈んでいった。
「だいしょ~り~!」
「この馬鹿!周りを見ろ!お前が滅茶苦茶な攻撃をしたせいで環境が滅びかけているぞ!」
「だから~、この力で治してあげればいいんじゃない」
戦いの跡を綺麗さっぱりに片付けて、ヤノーコに切り倒された木々達を再生。伝説に聞くチート能力ってこんな感じなのかな。森1つを復活させて、神様になった気分だ。
「いいか!俺はこういう場合にしか力は貸さない!」
「まあまあまあまあ!そんなこと言わないで困ったら助けてくださいよ~クワァーバル様~!」
少し屈辱的ではあるけど、いつでもこの力を使える様にこいつの機嫌は取っておくようにしないと…
こうして私は斬木のヤノーコを討伐することに成功した。しかも1人でだ。害のある魔物を倒したわけだから公表すればきっと高い評価を貰ってAランクにのし上がれる!早速魔物の死骸を回収して適当な町の冒険者ギルドに…
「あっ…」
「あの、シエルさん。ルンルンな気分のところ申し訳ないのですが…」
「…カジヤン、言わなくていい…」
死骸は溶岩の中で溶けてしまい、戦いの痕跡が残っていた森を元通りにしてしまった。ユニークと戦いそれに勝ったという証拠がこの場に何一つ残っていない。
ユニークモンスターは倒した。その成果だけを得た私は自分の馬鹿さ加減に呆れた。
そしてクワァーバルの力を借りて、森からの脱出に成功したのだった。