オーロラの現れる夜更け
孤児村で一波乱あった日の夜更け。
シエルさんに蹴られた事で私は目を覚ましてしまった。
「んん…もう」
なんて寝相だ。
女性としての自覚はあるのだろうか。
朝まではまだ時間があるし、もう一回寝よう。
「んがあああああ…」
それにしても酷いイビキだ。
人間の女性はこれが普通だったりするのかな?
だけど私が昔仕えてた屋敷の令嬢はもっと上品に眠っていたような…
「ぼおおおおお!」
一度、外の空気を吸って来よう。
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武道場を出てふと空を見上げると、オーロラが出ていた。
初めて見るオーロラは、話に聞いていたように空に浮かぶカーテンの様だった。
もしもあれがカーテンなら、開いた先にはどんな景色が広がっているのだろう。
それともあのカーテンが開いた時、得体の知れない何者かがこちらを覗いているのだろうか。
「…うぅ」
身体がブルッと震えたが寒かったわけじゃない。
この砂漠の夜と昼間の気温は大して変わらず、過ごしやすい環境だった。
「トイレ…」
村には複数建物があるけど、便所があるのは畑の近くにある長屋だけ。
ここで出した物は次の日の早朝、村から離れたところに生息するサカサヤマカゲロウという巨大な魔物の餌として運ばれるそうだ。
「…あれ?」
長屋へ近付くと、入るのを躊躇っている素振りを見せる子どもがいた。
「ねえ君──」
「キャア!?」
「あっ驚かせちゃってごめんなさい。君、どうかしたの?」
「えっ…何でもないもん!」
…そうか、この子は暗闇が怖いんだな。
この村の建物には照明が無いみたいだし、それで皆から離れた場所で一人トイレっていうのも怖いよなぁ。
「怖いなぁ…」
「おばさん、大人なのに怖いの?」
「うん、一人で暗いトイレはちょっと怖いかも…」
「じゃ、じゃあ私が一緒に行ってあげる!」
そうして私達は長屋に入り、大きな声で会話を絶やさないようにしながら用を足した。
「あ~スッキリした。助かったよ、ありがとうね」
「オバケ~!」
長屋から出てきた子どもは、私の顔を見るや否や、叫んで逃げていってしまった。
全く、おばさんだったりオバケだったり、失礼な子どもだな。
「よう」
「何ッ!?」
背後から敵である人物の声が聴こえ、私は長屋の屋根へ跳び上がった。
「おいこら降りろ。ボロい便所なんだ、屋根に穴開けたらどうすんだ」
クロウ…!
勇者セスタとその弟子マユは魔族に対して強い差別意識を持っていた。
こいつはまさか、単独でいる私を殺そうと昼間から狙っていたのか!?
「そう警戒すんなよ…ありがとうな。俺は男だからあいつと一緒に入ってやれなかったんだよ」
「…この村には魔族の子どもがいる。なのに勇者セスタの弟子であるはずのあなたが、何故私や彼らを見て平然としていられるんだ」
「別に俺は師匠やマユほど魔族を嫌っちゃいねえよ。まあ剣とか向けられたら戸惑いなく殺せるがな…」
おそらくこの言葉に嘘偽りはない。
だからこそ聞いてみたくなった。
「どうして勇者セスタの仲間なんかやってるんです。師匠への恩義があるんだと思いますけど、あの人はハッキリ言って異常だ」
「あの人は強い。それ故に孤独だ。他のやつらはどうだか知らねえけど、俺は最期まであの人の味方でいてやろうと思った。あの人から仲間とは思われてねえだろうがな」
「勇者セスタは魔族差別者だ。ここの子ども達が彼女の味方になるように洗の…教育だって出来るはずだ」
「あぁ俺そういうの好きじゃねえんだよ。差別したきゃすればいい。強要はしねえ。何にでもなれるガキの道を減らすような真似はしたくねえんだ。例え進む道が邪道でお先真っ暗だとしてもな」
「…意外です。あなたのような人がそんな複雑な倫理観をお持ちだとは思いませんでした」
「へへっよく言われるぜ」
気付けば敵と会話しているということを忘れていた。
「不幸の前触れだな…オーロラが出てるし明日は大雨だ。出発は延期しな」
「ありがとうございます」
そして次の日、クロウが言った通りに天候は大雨。
私達は出発を延期することになった。