第58話 蠍狩り
戦車のように大きなアレールソルトサソリが暮らす砂漠の一辺。
私は双眼鏡を覗き込み、どの個体を狩るか慎重に選んでいた。
「あいつが一番小さいな…いやけど、群れの中かぁ」
サソリの破壊毒は無機物にすら影響を及ぼす。
個体の死後、その強力過ぎる毒が群れの仲間達に被害を及ぼさないようにか、殺した個体の毒は5分後には何の効力も持たないただの体液へと変質を起こすのだ。
だから遠距離攻撃で殺してから死骸を持ち帰るという手法もあるが、今の私達には不可能だ。
「シエル、あの群れから左。離れた位置にポツンとはぐれてるやつがいるぞ」
アクトがそう言うので一旦双眼鏡から顔を離す。
すると彼が言ったように、群れから離れたところに1匹だけアレールソルトサソリが歩いていた。
「あいつが良さそうだ」
「おぉクワァーバル、何話ぶりの台詞よあんた。悪いけど私達魔力ないから、あんたの力使えないわよ」
「そうか、残念だ」
私達は姿勢を低くし、狙った個体を包囲するように分かれて移動した。
蠍はこちらに気付かず、砂から出てくる魔物を探してウロチョロしている。
全員がポジションに付いた時、蠍の背後にいる人が奇襲してそこから袋叩きにするという作戦だ。
「カジヤンか…」
バニーラ特有の脚力で跳躍。
空中でハンマーを構えたカジヤンはサソリの背中に重渾の一撃を打ち込んだ。
「叩けえええ!」
それから突撃した私達は脚を切り落として逃げられなくし、柔らかい部分に何度も剣を刺した。
冒険者にあるまじきごり押し狩猟!
こんなのプロが見たら泣くわよ!
「ふぅ、何とか無傷で狩れたわね…」
「あの…」
カジヤンが遠くを指した。
そこでは巨大なサソリを相手に、様々な道具を駆使して立ち回る孤児村の子ども達がいた。
手慣れているようだ。
「…上には上がいるもんだな」
その後、巨大なサソリの死体を引き摺って村へと帰還。
肉を切り分けて長持ちするように加工した。
世の中には入れるだけで食料を保存できる凄いバッグがあったりするけど、私達の誰もそんな便利な物を持っていなかった。
「しっかしこんな量持って歩けないわねぇ」
「いらない分はこの村に寄付しちゃいましょう。殻は防具に加工するみたいですし」
「余裕なさげな村ってだけあって、リサイクル精神旺盛ね~」
荷車に不要な部位を乗せて、私とカジヤンは村長の元へ向かった。
すると村の中がさっきまでとは変わって賑やかになっていた。
「おじさんが帰って来るって!さっき帰って来た子が会ったって!」
「サソリいっぱい引っ張ってたって!」
どうやら誰か関係者が戻って来るようだ。
私達は村長にサソリの肉と殻を押し付けてから挨拶に向かった。
一応、村に泊まらせてもらってる身だからしっかりしないと。
「あっ!おじさん来た!」
「サソリいっぱい持ってきた!」
大柄な人物が村へ入ってくる。片腕で引っ張る大きな縄には、1匹捕るのにも苦労した巨大なサソリが複数体縛られていた。
「あいつは…!」
あの男には見覚えがある!
背負っている巨大な盾は、魔力をナロ硬貨へと変換するエリクシルシールド!
そしてレイアストの腕を軽々と叩き折る超人的パワーの持ち主!
勇者セスタの弟子の一人のクロウだ!