第57話 食糧集め
イセスト孤児村の住民はおよそ100人。十数年前に孤児が集まって出来た村ではあるけど、今では成人した人もこの場所を支える為に働いてるみたい。
村長はミコット・ジャック、19歳。ここの村長は3年ごとに交代するという決まりがあり、17歳の住民から選出するそうだ。
「村の者を救っていただきありがとうございました。私達に可能な限りではありますが、何か協力出来る事はありませんか?」
「というわけだけど、どうする?」
「…今日中に砂漠を越えるのも難しいし、部屋を借りて今日はもう休まないか?」
「それが良さそうですね」
一晩過ごせる部屋を貸して欲しい。そう頼んで私達が案内されたのは畳の敷かれた広い家…というか村の武道場だった。
「一室で雑魚寝しろって!いや修学旅行ですか!?」
「畳破れてるしちょっと臭いし…う~ん」
客人に、しかも命の恩人にこの仕打ち…いや、貸してもらえるだけありがたいか。
「この村から北東にボサボサボテンやアレールソルトサソリが生息しているらしいので、狩りに行きましょう」
「えぇ~虫食べるの!?」
「サソリって言ってもおっきいやつですから、ウシとかクマの肉と大した違いありませんよ」
「そういう問題じゃないんだけど…」
虫系の魔物を食べるのには抵抗があるというか…
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普通のサボテンは棘を抜いて肉を食べるけどボサボサボテンはその逆だ。肉の栄養や旨味が長い棘に凝縮されている。なので収穫する時はペンチなど棘で引き抜いて、筒状の容器に回収するのだ。
「棘が刺さらないように気を付けてください」
「いってぇ!この野郎!」
「サボテンに怒鳴るな」
いっったぁ~…魔物だったら剣抜いてたわよ。
「今日の分だけじゃないですからね。全員筒いっぱいになるまで集めてくださいよ」
「サボテンの身は食べれないの?」
「食べれたもんじゃないですよ。ガソリンの掛かったタイヤみたいな味です」
雑談していく内に、背負っている容器の重量は増していった。これで数日は食糧に困る事は無くなった。
「もうこれ以上入らないわ。そっちはどう?」
「俺のも満杯だ」
ボサボサボテンの収穫はこれぐらいで良いだろう。次はアレールソルトサソリだ。
アレールソルトサソリは全長100センチメートルの魔物だ。上質な盾をも砕く2本のハサミと、並みの再生スキルでは間に合わない程の破壊毒を出す針を備えており、上級の冒険者であろうと見かけたら逃げる事を推奨されている。
…そう図鑑には書いてあったはずなんだけど…
「100センチメートルなんて可愛いモンじゃないわよアレ!?」
遠くからでもハッキリと見える。砂漠を大部分を闊歩する巨大なサソリ達を。
「ありゃあ戦車よ!」
「地域によって個体差があるのだろう」
どうしよう。リスクを冒して狩猟するか、食糧を諦めるか…