第56話 砂漠の孤児村
海岸の砂が白に近い色合いをしていたのに比べて、今私達が進む砂漠は橙色に近いものだった。
それにしても砂漠と言えば昼間は焼かれるように暑く、夜間は凍えるような寒さに襲われるものだと思っていたけど…
「見てよあれ!砂漠なのに木が生えてる!」
「あれは地底に存在する水源にまで真っすぐな根を伸ばす深木の一種、オルリックですよ」
ポツンポツンと見渡した先に木が生えていた。それに過ごしやすい気温だ。
「夜はどうなんだろうな。どこか越せる場所があればいいけど」
「それだけじゃない。アルマに向かうための手段を入手しなければならない」
「…ちょっと!あそこ見てください!」
大きな声を出したカジヤンが指した方向に何かが落ちていた。あれは…子どもだ!
────────────────────────
「み、水…」
「おい!大丈夫か!」
「水を欲しがってます!」
一番に駆け寄ったカジヤンが水筒の中身を惜しみなく飲ませた。
「影を作ってあげて!」
それから私、アクト、ブレイズは太陽を背にして並んで、子どもを影の中に隠した。
「君、大丈夫?お父さんお母さんは?」
「うぅ…」
少年のポケットから何かが零れる。カジヤンが拾ったそれはコンパスだった
「あれ…このコンパス、方位が書かれてません。指定した物を指すポイントコンパスですよこれ」
「こいつが指す先にこの子の両親がいるってことか。心配してるだろうし早く連れて行こうぜ」
アクトの言う通りだ。私達はここまで使っていたコンパスではなくこの子の物を頼りにして砂漠を進んだ。
────────────────────────
コンパスの指す方向へ進んでいく程、深木が増えていく。もはやここは森と呼ぶに相応しい場所だった。
しばらくして私達は拓けた場所に出た。そこには小さな村が存在していた。
「子どもが沢山いる…」
「大人の姿が見当たりませんよ」
村の門に付いた鐘を鳴らすと、子ども達が集まって来た。
「何か御用ですか?」
「新聞なら間に合ってますよ」
「あっ洗剤は置いて行ってください」
随分図々しい子ども達だな…
「この子のポイントコンパスがこの場所を指していたの。何か心当たりないかな?」
「その子どもはこの村の子です」
「保護してくれたんですか?ありがとうございます」
私達が保護したのは砂漠の偵察に出ていた内の一人らしい。それにしても子どもが偵察に行かなきゃいけないなんて、余裕のない村なんだな。
「ここはイセスト。僕達のような行く宛の無い子ども達が集まって出来た孤児村です」