第48話 マユ、襲来
バフ料理の費用を稼ぐため、私は次の日の朝までずっとクエストに挑戦していた。
「…」
そうして今、ケジンの東側から見えるネルハ台地の後ろから昇る朝日を眺めていた。
レイアストとの修行で見た時には凄く綺麗に見えたのに、今は何とも思わなかった。
「いい加減にしないと疲労で死んでしまうぞ!」
「うん、キリがいいしレストランに戻る。疲労ならそこの料理で回復させればいいから」
敵は必ず私を狙ってくる。そこを返り討ちにしてやるんだ。
「随分とお疲れの様子ね」
聞き覚えのある声が聞こえた途端、拳に力が入った。どこにいるかと周囲を見渡し、建物の屋根に立つマユを見つけた。
「昨日までのバフが重なりまくってたあんたでも全然倒せたけど、あんまり激しい戦いだと化粧が崩れちゃうからこうして待ってたってわけ」
こいつが言ってる通り、寝ずに活動を続けていた今の私には何のバフも掛かっていない。しかしそれが逃げる理由にはならない。
「安心なさい。クロウは生まれ故郷の孤児院に行ってるから今日は私だけよ」
「ナメやがってぇ!あんたはここでぶっ殺す!」
「やめろシエル!このまま戦っても無駄死にするだけだ!逃走しろ!」
「…そのポケットに入ってる瓶…もしかして魔族?」
マユがクワァーバルに注目した。流石の魔族嫌いだ、目つきが一変して鋭くなった。
「…この国には魔族が見当たらなかったから、てっきり賢い人達が住んでるのかと思ってたけど…」
まさかあいつ!コルクの時みたいにこの国を消すつもりか!?
「そんなことさせるか!クワァーバル!力貸しなさい!」
「ここは街の中だぞ!下手に俺の能力を行使したら大災害に繋がりかねない!」
だったら私の力だけで戦うしか…
元よりそのつもりだったんだ!臆してどうする!
「ウォリャアアア!」
「スピード・エンチャント」
ナイトモードの等剣で斬り掛かるが、マユは肉体強化の魔法で私の攻撃を全て回避した。
考えてみたら再生能力もあるんだった。やっぱりここはケンソォドソーダーしかない!
「喰らいなさい!アイス・バレット!」
「纏意!」
私は纏意で防御力を上げつつ、必殺技の準備を始める。街中で撃つとしたら真上だ。シェルモードで打ち上げるか、上手く空中に誘導してやる!
「あら?剣の形が変わったわね」
「その骨叩き切ってやる!」
再び攻撃を仕掛けるが、マユの動きはやはり速い。それに等剣がシェルモードになった事で杖で応戦するようにもなった。
「ちょっとちょっと、剣士が魔法使いに接近戦で負けていいわけ?」
「黙れ!」
クエストの直後じゃなければ!バフさえ掛かっていれば!こんなやつすぐに殺せるのに!
「シエルさん!」
どこからか巨大なハンマーを振りかざしたカジヤンが援護に来た。その攻撃を避けようとマユが跳んだ先には、ブレイズが待機していた。
「フンッ!」
ブレイズは容赦なく剣を突き降ろし、マユの腕ごと地面に剣を突き立てた。
「うぅ!…も、もしかして──」
「この刃にはスティンストファークリガエルの毒が塗ってある。今更腕を切っても即効性の麻痺毒からは逃れられんぞ」
「か、身体が痺れて…動か…」
間もなく、マユが凍ったように固まってしまった。
「…連携が上手くいっただけでこうもあっさりと倒れるなんて、大したことないのね」
「どうするんですか?」
「この身体を消してこの国を離れる。再生用の肉体がどこに置いてあるか知らないが、少しは時間稼ぎになるはずだ」
「魂を破壊する術とかないの?」
「…魔王ならあるいは…」
「だったら魔王のところに連れて行くわよ」
「駄目だ、魔王の居場所を知られる危険性がある」
「迎え撃てばいいじゃない!4対4だしこっちには魔王がいるのよ」
「その内の1人、あるいは5人目に勇者セスタが来たらどうする」
ブレイズに言い負かされてしまったが、やはりここで殺すのは賛成できなかった。
「この首、ここで跳ねさせてもらう」
ブレイズは突き立てた剣を引き抜いて構える。そして腕を勢いよく振った。
しかし首目掛けて振られた剣はバリアによって止められてしまった。
「こいつ!麻痺毒を喰らっても魔法を発動できるのか!?」
「く…く…」
「口が動き出しましたよ!解毒剤を使ってもいないのに!」
「くるぢい…ぢにたくない…」
こ、こいつ…!
「自分が死にそうになれば命乞いか!コルクの人達はそれすら出来ずに殺されたんだぞ!」
「落ち着いてください!…ど、どうしましょう。剣が防がれちゃうんじゃ毒を流す事が出来ないし…」
「ぢぬのいや…!ぢぬのいや…!……ら……ら……」
何か嫌な予感がする…
「皆離れて!」
「ラーシュルギャレット!」
謎の呪文を唱えた瞬間、マユを中心に衝撃波が発生。周囲の建物が一気に倒壊し、私達の身体は宙に放り上げられた。
「何なのよおおおお!?」
「あっあれは!街に何か出現してます!」
「魔物…なのか!?」
さっきまで街があったその場所には、今までに見たことのない巨大な魔物が出現していた。