第47話 怒りを力に換えて
注文したリスカーレットの両腕の炙り焼きとトウヤトウの蕾フライがテーブルに届けられる。私はそれを掴んでそのまま噛り付いた。
もっと強くなりたい。そしてあいつらを私の手で殺す。レイアストを殺した勇者の弟子達を…
「おいシエル」
「足元から誰かと思ったら…クワァーバルじゃないの。久しぶりね」
瓶詰精霊のクワァーバルが足元にいた。さっきカジヤン達の姿が見えたし、彼女達がここへ運んできたのだろう。
「レイアストについては…残念だった。しかしここで立ち止まっている場合じゃないぞ。敵は──」
「えぇ、その通りよ。だから私は強くなるの。もっともっと強くなってそして…あいつらを殺す」
「…冒険者であるお前が知らないはずないだろう。料理の持つバフ効果など一時的な物に過ぎない。こんな事したって時間の無駄だ」
「知ってるわよそんなこと」
「それに食うだけで勝てるならブレイズとレイアストはお前に修行なんて付けなかった。考えろ、勇者の弟子達という猛者とお前の差を」
力の差がなんだ。レイアストから教わったケンソォドソーダー。それさえ直撃させれば私は勝てる。あいつらを自分達が殺した人間の技で殺してやるんだ。
「…おい、聞いているのか」
「慰めなら必要ないわ」
「忠告してやるが憎しみに駆られたような戦い方では絶対に勝てない。勝てたとしても待っているのはロクな未来じゃない」
「憎しみ…?そんなんじゃないわよ。あいつらは倒さなきゃいけない敵なだけ。平気な顔で国一つ消すようなやつら、放っておけないでしょ」
「…意外と薄情なんだな。仲間がやられて怒りの一つも覚えないのか。まあ、復讐するのに最適な言い訳があって良かったな」
公共の場じゃなかったらシェルモードの等剣でこの瓶を叩き割っていた。こいつは一体何が目的でここに来たんだ?
「………ふぅ………ところで何か食べたい物ある?奢るわよ」
「俺は大地の精霊だ。植物と同じで光と水さえあれば活動に支障はない」
「ここの水、イサカナマウンテンっていうイケネミ北部にある山の上質な水らしいわよ」
「天然水か…ならいただこう」
奢り…と言っても水はタダだがクワァーバルのために1リットル分を頼んだ。やかましい子どもに対して大人が飴玉を与えて黙らすのと同じ手法だ。とりあえず、水でも飲んで黙っていてくれ。
「それでお前、これからどうするつもりだ」
「もう有り金ギリギリだから、またクエストに行って鍛えながら食費を稼ぐ。それであいつらがここに来るまで待つわ」
「ブレイズとカジヤンはどうする。あいつらはアルマ王国に行くつもりだぞ」
「それなら…彼らとはここでお別れになるわね。私はマユとクロウを殺したい。カジヤン達はセスタを倒したい。もう目標が違うもの」
「冷静になって考えろ。今の自分がおかしいって思わないか。倒す敵に執着して、仲間との縁切りに迷いを持たない。鍛錬の方法だって無茶苦茶だ」
「………レイアストを見殺しにしか出来なかった自分への失望。そしてセスタとその弟子をぶっ殺したいっていう憎悪。あんたが言う通り怒りで冷静さを失ってると思うわ。でもあいつら殺すためならこの怒りすら力にしてみせる」
「言っておくがお前は絶対に勝てない。死ぬぞ」
「何とでも言いなさい。ごちそうさまでした」
徹夜で稼いだクエストの報酬が僅か1時間でパーになったけど、これからまた稼ぐつもりだ。そしてもっともっと強くなる。
完全、いやそれ以上の状態であいつらを迎え撃つ。私が味わった屈辱をあんた達にも………絶対に!
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