表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/91

第46話 レター

「……ル…しっかりしろ!シエル!」



「ここは…」

「イケネミ国のケジンだ。一体何があった!どうしてこんな道端で倒れている!」

「…レイアストが………レイアストが!!!」


私はレイアストに生かされた。アオクリーの翼でここまで飛ばされたんだ!


「転送屋へ連れていって!今すぐ加勢すればまだ間に合うから!」

「落ち着け!一体なにがあったんだ!」

「レイアストは今、勇者の弟子二人と戦ってるのよ!」



ブレイズがいればまだ希望はある。そう希望を持って転送屋へ向かったのだが…



「全く参っちゃうな~、頼まれたフルーツを今日中にコルクへ届けないといけないのに」

「転送先が見当たらないってどうなってるんだろう」


すれ違った農家の会話を聞いた私達の足取りは少しずつ重くなっていき、建物に着くことなく止まった。


「シエル、お前がいたコルクはどうなっている?」

「け、消された…マユっていう魔女に…」

「………それでは転送屋の力では飛べない」


そうだった…転送屋は存在する場所にしか飛ばす事が出来ないんだ。


「だったら転移系のアイテムを──」

「シエル・ラングリッター」


ブレイズに名を呼ばれて振り返る。彼は目を合わせると話を続けた。


「何故レイアストがお前を飛ばしたのか。その理由をよく考えろ」

「だけど──」

「最悪のケースを想定して、フラリアが目覚め次第ここから出発する」

「レイアストを放っておくのかよ!」

「あいつの救援に行って万が一お前が死ねば!…これまでの事が全て徒労に終わる…考えろ。レイアストはお前に可能性を見出したんだ」

「うぅ…」


………冷静にならないと。あいつらはここに来るかもしれないんだ。


「………あれ、何か入ってる」


何も入れていないはずのズボンのポケットが膨らんでいた。何か入っている感触がして手を入れると、中からクシャクシャになった紙が出てきた。


「…なんだろうこれ」

「貸してみろ…鑑定(アナライズ)!」


ブレイズがアイテムを調べるスキルを発動した。どうみてもただの紙だ。しかしその正体は…



「ダイイングレターだ。この枠に血判を押した者は死に際にメッセージを残せるという…こうなることを、あいつは予期して持っていたのだろう」


ブレイズが指した枠には既に誰かの血判が押されていた。これは恐らくレイアストの物だ。


まだ文字は書かれていない。私が向こうを飛び立ってから時間は経っている。もしかしたら、何とかなって生きているかもしれない。

今はその可能性を信じよう。



「…病院の近くに宿を移してある。行くぞ」

「えぇ…」


そうして私達は歩き出した。




────────────────────────




「あの宿ね」

「あぁ。明日になればフラリアも回復しているだろう。俺は出発に向けて食糧を買い集める。お前は──」



ふと、ダイイングレターを開いた時だった。



「嘘…でしょ」

「………ッ!」



ダイイングレターに一文字目が現われた。()という文字から始まった文章は、あの二人と戦って分析した事だった。


クロウという男が使うエリクシルシールドは吸収量に上限が無いようだ。しかし盾を庇うような戦い方をしていた事から物理攻撃には弱いのかもしれない。しかし一撃も与える事が出来ず詳細は不明。あくまで可能性の一つであると考慮するように。


マユは魂と肉片があれば蘇生出来るとクロウが語っていた。おそらく肉片のバックアップは一生分は用意されている。しかし何者も魂は一つである。ならば魂を消滅させれば復活出来なくなるのではないだろうか。こちらも可能性の話ではあるが、前者よりも信憑性は高いようだ。


「…シエル、お前の意見を聞きたい」

「うん、レイアストが盾を攻撃しようとした時、あいつは素手で物刺しを止めてた。マユの方は話しか聞いてないけど、この可能性はあると思う…きっとそうだ」

「そうか…あいつは良くやってくれた」


レイアストは命を懸けて敵二人の弱点を見つけてくれたんだ…


「まだ続くぞ………弟子はあと二人いるだと!?」

「その内の1人と私は戦った…岩の鎧を纏ったあの男!?」


あいつも勇者の弟子だったの!?それに殺したはずだったのに生きているなんて…!



文字の現れるスピードがどんどん遅くなっている…!


「ねえ!これどうなっちゃうの!?」

「…血判を押した人間が死ねば、もう文字が綴られる事はない」

「そんな!?」

「レイアストの…最期の言葉だ」


最期に綴られたのは私へのメッセージだった。



────────────────────────


シエルちゃん、ブレイズ君、魔王君、フラリアちゃん、後を託す。シエルちゃん、あなたのような人に出会えて良かった。おかげで安心して逝ける。


あなたを信じている。頑張


────────────────────────






「レイアアアアアアァァァ──」

「くっ………ウオオオオォォ──」


私達はレイアストに届かせるように叫んだ。どれだけ待ってもそれ以上文字が綴られる事はなかった。


その瞬間、私の大切な仲間が死んでしまったのだと実感した。



誰かが死ぬのは初めてじゃない。ダンジョンで先を進んでいた冒険者が死ぬところだってみた。


私はレイアストが死ぬところをこの目で見たわけじゃない。ダイイングレターというアイテムで知っただけだ。


それなのに…


「──オオオオオオ!!!」




かつてない喪失感に襲われた。涙と声が止まらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ