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第5話 瓶の中身は

お婆さんから土カスの入った瓶を2000ナロで買った後、特にこれといったことはなく日が昇ろうとしていた。


「いや~これで金貰えるんだし世の中って楽でいいわ」

「忘れてないですか、私達一応指名手配の身ですからね。掲示板に顔が載ってたら給料もらうどころの話じゃありませんよ」



そういえばそうだった。しかしカジヤンの警戒とは裏腹に、今朝更新された掲示板に私達の手配書は載っていなかった。



私達はギルドで報酬を受け取った後、街中の店を回って出発の準備をした。


「夜警明けでそのまま出発なんてやっぱ馬鹿ですよ。せめて今晩に遅らせましょうよ」

「いつこの街に手配書が届くか分からないでしょ。それに疲労回復のポーションは沢山買ったわけだし、これでなんとかなるわよ」


な~んて。カジヤンの容器に入れたのはただの砂糖水だけど。魔族は思い込みが激しいって聞くし、ただの砂糖水でもポーションって思い込ませておけば回復するでしょ。これでお金も節約できてお得だ。


「分かりましたよ…楽じゃない逃亡生活だなぁ」


咄嗟に私の容器に手を伸ばして来たので、思わず腕を引っ込めてしまった。


「…」

「カジヤンのはこっちだよ」

「いやシエルさんの方で。私のポッドの中身、角砂糖溶かしただけの水道水ですよね」


ギクッ!なんで気付いてやがるこいつ…


「さっき向こうに隠れて一生懸命砂糖を混ぜてるところ見てましたから」

「やだなぁ、あれはポーションが混ざるようにしていただけで…」

「買ってたポーションって全部同じ商品でしたよね。混ぜる必要があるんですか」


完全に見破られた私は渋々ポーションが入った容器を彼女に渡した。


「…何か言う事は?」


「ごめんなさい」


バニーラは脚力が強いらしい。というわけで自慢したくなるような私の小尻へ蹴り1発で許してもらえた。


「骨折れたあああああ!」

「馬鹿言ってないで立ってください。出発するんでしょう」


そうして立ち上がろうとした時に、バッグの中から瓶が落ちて転がっていった。


「あ、お婆さんからもらった土カス」

「精霊の封印された瓶でしょ」


転がった先には丁度、綺麗な花が咲いている花壇があった。土はここで捨てて行こう。


「えっ本当に捨てちゃうんですか!?精霊いるかもしれないのに!」

「土カスなんて一文にもなりゃしないわよ………あれ?」



蓋を外して逆さにしているのに土が落ちて行かない。水とかで固まっちゃってるのかな。こういう時はそこら辺の枝で土を掘り出して…


「やめろ!そんな物で突かなくたって出てやるから!逆さにするのはよせ!」

「び、瓶の中から声が!カジヤンどうしよう!」


瓶の向きを戻した。すると瓶の中から砂で作られた人間の上半身が出てきた………まるで風呂に浸かってる人みたいだ。


「俺はクワァーバル。かつてユージーンという大地を収めていた精霊だ。しかしユージーンは都市開発工事のため植物が排除され、俺の居場所はなくなってしまった。あの婆さんは俺が悪霊になるのを防ぐために封印していたんだ」

「えっそんな大切な物をなんで売り物にしてたわけ?あのお婆さんボケてたんじゃないの?」

「きっと婆さんは俺を新しい大地に連れて行ってくれる人に巡り合わせようとしてくれたんだ」


すっげえポジティブシンキング。私だったら売り物になりそうだったから売られたとしか考えないよ


「そっか。それじゃあね」

「待て!置いて行くな!せめてこの瓶を割って行け!」

「割ればいいんですね」


カジヤンが小さなハンマーを取り出す。魔物の血の臭いを放っているけど、これが彼女の武器なのかな。

そしてカジヤンは躊躇せずハンマーを振り下ろした!


「えぇい!…ン………か、硬い!この瓶割れませんよ!牛乳瓶のクセに!」

「やはりそうか…どうやらこの瓶には封印術が掛けられているようだ。俺も身体の一部しか出せない」

「そんな…どうやったら解けるんですか」


「ちょっとカジヤン、そんなやつ放っといて行くよ」


このまま会話してたら厄介な頼み事をされかねない。カジヤンを連れて行こうと手を引っ張ったけど、バニーラ自慢の足がその場から離れようとしなかった。


「本来、俺は大地の精霊だ。これは可能性の話だが、精霊のいない新しい大地へ辿り着ければこの封印は解けるかもしれない」

「ですってシエルさん!」

「嫌だよ私達指名手配なんだし!こんなやつに手を貸してる暇ないよ!」

「なにっ!お前達は犯罪者なのか!………」


なぜ黙る?なぜ空気を深く吸っている?…嫌な予感が………


「おまわりさああああああああ!この人達、犯罪者でえええええええす!」

「てめええええええええええええ!」


大声で叫ばれた!すると時間も経たず街の警備兵が集まって来てしまった!最悪だ!もう!


「大きな声がしたが一体なにが…」

「おいあそこにいる2人組!さっき届いた緊急指名手配書のやつらだ!奴隷と冒険者!」



それから私達は全力で街から脱出。それでも追ってくる兵には恐怖した。


「シエルさん乗ってください!バニーラの脚力であいつらを振り切ります!」

「逃げ切れるの?っていうかそんなこと出来るなら最初から…ってなんで土カス持って来てるのよ!」

「俺はクワァーバルだ!この犯罪者!この野郎!放せ!」

「また変な奴に拾われたらどうするんですか!」



そして私と土カスを持ち上げたカジヤンは、これまでに見せたことのないスピードで疾走。あっという間に兵士達を振り切り、森の中へ突入した。

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