第44話 発動!ケンソォドソーダー!
「コオオオオ!」
フローズンフォートレスが雄叫びをあげる。すると凍った海面が割れて海水が勢いよく飛び出した。
「避けろ!」
海水は一瞬で凍らされ、一気に殺傷力のある武器となったのだ。
私はレイアストに言われる前から動き出し、攻撃を避けつつドラゴンに接近していた。
「カラメソード──」
「飛べ!フォートレス!」
技を繰り出す直前、マユの指示を聞いたドラゴンは翼を動かして空へ上がっていった。
これじゃあ私の剣が届かない!飛んで逃げるなんて反則だ!
「氷の太陽!ヘリオス・エイロ!」
何か唱えたかと思うと、空中に巨大な氷の球体が発生した。
まるで球体は私達を照らすように、不自然な角度で太陽の光を屈折させていた。
「あ、あれ…身体が…冷えてく…!」
「シエルちゃん!纏意で身を守れ!」
レイアストの指示通りに纏意を発動すると、肌を包むような寒さは収まった。
「吸収した光エネルギーを凍結エネルギーに変換する!それが氷の太陽の能力!そして紫外線を浴びた肌が黒く焼けるのと同じで、この太陽から反射された光を浴び続けた者は凍る!」
「なにそれ!強すぎない!?」
「単体では威力のない蓄積系の魔法なら纏意でも防げる!だから心配しなくても大丈夫だ!」
しかし凍結エネルギーを防いだところで状況は変わらない。纏意を発動している今、魔力も少しずつだが削られていった。
「…カジヤン!」
カジヤンは纏意を習得したのだろうか。恐る恐る振り替えると、全身が凍らされた彼女がそこに立っていた。
「レイアスト!カジヤンが!」
「シエルちゃん、ケンソォドソーダーの準備だ」
「そんな!どうして急に!」
「ドラゴンも太陽も全部あの魔女が造り出した物だ。これ以上増やされる前にケンソォドソーダーで本体を殺すしかない!」
レイアストは手に物刺しを召喚して即射出を繰り返し、浮遊するドラゴンに牽制射撃を開始。
私は両手首を合わせて魔力を溜めた。レイアストがあそこまでマジな顔をしてるのは初めてだ。力の差が開き過ぎてマユという魔女がどこまで強いのか理解が及ばないけど、きっとヤバいやつなんだ。
「やめないさいよ!私のフォートレスが崩れちゃうじゃないの!氷の槍!ヒャルダバオート・ランセル!」
崩れたフォートレスの破片が槍となり、地上にいるレイアストに降り注ぐ。
レイアストは攻撃をやめて氷の上を走り出したが、なんと槍は彼女を追従。海面の氷に衝突せずに旋回して見せた。
「アッハッハッ!いつまで逃げていられるかしら!…氷の壁!ネプォン・エッズフリーガ!」
レイアストを囲うように氷の壁がそびえ上がる。唯一の逃げ道がある後方からは槍が迫り、八方塞がりだった。
「おっしま~い!死ねえ!」
「物刺しの200は最大火力!じゃあ0はどうなのか気にならない?」
すると物刺しを召喚し、数値の高い末端部分を握る締めた。
あれじゃあ相殺しようにも威力が足りないじゃない!
「0はね…こうだ!」
そうしてレイアストは物刺しを振り回し、次々と飛んでくる氷の槍に接触。すると槍は砕けたり別の方向へ弾かれるわけでもなく、レイアストの足元へ落ちて砕け散った。
「どういうこと!?なんで氷の槍が止まってるの!?」
「0はダメージが発生しない。その代わりにあらゆる物理攻撃を停止させることが出来る!」
攻撃を無力化した!あの物刺しにそんな能力が隠されていたなんて!
「さあお次は何かな?全部止めちゃうんだから」
「うぅ…キー!ムカつくわねあんた!だったら──」
もうマユに魔法は撃たせない。ケンソォドソーダーを放つための準備は完了した。
「何、この魔力?足元から?えっ?」
「ケンソォド!ソォダアアアアアアア!」
魔力を放出して、足元に向けていた両手を一気に振り上げる。
海面の氷は消滅して、現れた海も割れていた。そしてドラゴンの胴体は真っ二つに分かれ、乗っていたマユは断末魔もあげず、装飾一つ残らずに消滅した。
もう前のように魔力を出し切るまで撃ちっ放しにはならない。私は魔力の方向を止めて両手を手放した。
「ハァ…ハァ…」
技を制御出来るようになってもこの消耗。そして地平線までぶった切るようなこの威力…凄い技だなぁ、ケンソォドソーダーって。
「よくやったね、シエルちゃん」
「…レイアストがちゃんと教えてくれたからよ」
勇者の弟子マユ撃破。だけどセスタを倒すまで戦いは終わらない。もっと精進しよう。