第42話 凍る海
カジヤンと再会した次の日。私達はコルクにはない転送屋を利用するため、最寄りのシュラゼアという国に向かう準備を進めていた。
「二人ともアオクリーの翼で先に帰ってれば良かったのに」
「レイアストだけ置いてくなんて出来ないよ。そういえばカジヤン、クワァーバルは?」
「あーそうですよ!その話もしたかった!あなた、宿にクワァーバル様忘れていきましたね!?精霊様なんですよ!」
「いや瓶詰めだから印象薄くてさぁ…」
「はぁ…今はブレイズさんが保護しています。帰ったらちゃんと謝ってくださいよ。忘れられてマジギレしてたんですから。必須アイテムを忘れるとは何事だって」
「いや自分の事アイテム扱い!?」
港からシュラゼアまでの船はない。今は木製の船を一艘造っている最中だ。
「それにしても本当にこんな船で渡れるの?」
「いざって時にはアオクリーの翼で。泳げる人は置いて行けばいいよ」
船を侮辱したことが気に障ったのか、レイアストはかなり酷な事を言い放った。その泳げる人って私の事だよね?
そうして雑談しながら作業をして、船の完成に少しばかり時間が掛かってしまった。
「それじゃあ海に浮かべよう。フラリアちゃん、レールは大丈夫?」
「はい、そのまま押して来ちゃって大丈夫です」
船は予め木馬の上で造られている。私とレイアストはカジヤンが並べた木のレールに木馬を乗せて、そのまま海まで押していった。
「進水だー!」
レイアストはそう叫んで船を浮かべた。
だが次の瞬間、海が凍ってしまったのだ。
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「な、なにこれ!?」
もしも足が海水に浸っていたら。そう考えるとゾッとする。
「海が凍ったんだ!二人とも私の後ろに!」
異常事態だ。レイアストは物刺しを召喚、私はシェルモードの等剣を握り、カジヤンはマジックストラップのハンマーを巨大化させた。
「魔物!?それとも敵!?」
「分からない!微かな魔力も感じられなかった!もっと遠方!地平線の向こう側からだ!」
レイアストは船に積んであった双眼鏡を覗いた。
「…誰かがこっちに向かって滑って来てる!」
レイアストが言うには、氷を巻き上げる程の勢いで背の高い女が滑走して来ているらしい。
「魔法の杖を持ってる…あの格好、魔法使いか?」
「じゃあなんですか!?海がこうなったのもその人の魔法だって言うんですか!?」
とりあえず、私達は近くの岩陰に身を隠した。通りすがりの大魔導師ならこのままスルー。敵なら奇襲すると決定した。
しかし女はコルクの大陸には上がらず、凍った海の上で立ち止まった。
「ど、どうしたんだ…」
「小さな大陸ねぇ…楽でいいわ」
それから女は杖を構えて呪文の詠唱を始めた。明らかに、何か良くない事をしようとしている。
私達は一斉に突撃し、各々の武器で攻撃を仕掛けた。
だが、武器は魔力の障壁によって阻まれた。
「何?あんた達?」
「この島に何するつもり!?」
「いや…人間と魔族が一緒に暮らしてる国だから消しておこうかなって…それに占いで出たんだ。ここに来れば倒すべき相手に出会えるって」
「お前はセスタ・サーティンの仲間なのか!」
レイアストがその名を出すと緊張が増した。女の放つ圧力が何倍にも膨れ上がった気がした。
「なるほど…あんた達が魔王に味方する人間…師匠の敵!!!」
「師匠だって!?セスタが!?」
次の瞬間、大陸が光に包まれて消えた。そして海に大きな穴が出来上がった。
「コルクが…消えた!?」
「違うわ!私の力で消したのよ!でもあんた達は楽に死なせない!」
魔法で海を凍らせて、さらに国一つを消した!?なんて女なのこいつ!
「私は勇者セスタ・サーティンの弟子マユ。あんた達を殺す女の名前、ちゃんと覚えておきなさいよね」
勇者の弟子。そう語ったマユという女は私達を逃がしてくれなさそうだ。
「シエルちゃん、フラリアちゃん、自信持てよ…魔法は派手だけどビビる必要はない。あなた達は充分強くなったんだ。三人掛かりなら勝てる!」
「!…分かってる!」
「魔族が嫌いだからって無関係な人達の命を奪った事、絶対に許さない!」
こうして勇者の弟子マユとの戦いが始まった。