第37話 反省のための防戦(ガードマッチ)
再会した父親との会話を終えた私は、修行をしていた緑色の砂浜に戻ってきた。
「ソォダアアアアアアア!」
するとレイアストの轟声と共に海が割れた。
あれはケンソォドソーダーによるものだ。それも手本で見せられた時の何倍も広く海が割れている!
私も修行すればあんな風に出来るのかな…
「こ、これじゃあ…まだ足りない…」
少し近付いてレイアストの呟きが聴こえた。まだ足りない?この威力でまだ未完成なの?
「やっぱり、私は魔法の世界出身じゃないから…」
「レイアスト!」
「うぇっ!?シエルちゃん!?お…………どうして戻って来たの」
「もう一回修行を付けて欲しいんだ!逃げ出しておいて勝手な頼み事なのは分かる!だけど──」
「あなたより素質のある人を探す事を決めたから。無理しなくていいよ」
「そんなこと言わないでよ!」
「自分を信じられないで勝つ気もない。そんな人に修行は付けたくない!帰れ!」
「確かに自信はない!だけど自分でやるって決めた事を投げ出したくないんだ!」
「帰れ!」
「ごめんなさい!」
これで無理なら諦めよう。謝罪の意思を口で表しながら土下座に移行する。それと同時にレイアストがこちらに向かって疾走していた。
そして顔が地に伏せる瞬間、紐靴の褄先で私は蹴り上げられた。
「ぐぅっ!?」
凄く痛かった。顎を蹴られるなんて初めてだった。だけど仕方ない…
私はそれくらいの事をしてしまったんだ。
「やる気があるなら立て!」
「え…」
「これから太陽が沈むまであなたを攻め続ける!これに耐えられず一度でも倒れるようなら本当にあなたは能無しだ!修行は絶対に付けてやらない!分かった?!」
レ、レイアストがファイティングポーズを取っている!まだ私は見限られてない!
彼女との力の差は歴然…だけどここで逃げたら何も変わらない!やるんだ!
「さあどうした!やるの?やらないの?!」
「立つわよ!」
立ち上がると早速、ジグザグと特殊なステップを踏んで接近して来た。武器がない今、腕で防ぐしか…
構うか!打って来いッ!
「甘い!」
「読んだァ!」
フェイントを掛けて背後に回ろうとするレイアスト。だがスティンク高地で散々やられたことを身体は覚えていた。
反射的に動く身体は彼女に向いたまま。レイアストが左脚で繰り出す横薙ぎ蹴りを防いだ。
「これならどうだ!」
防いだ左脚が肩に乗る!レイアストは左膝を使って身体を持ち上げ、さらに右脚を上げて膝蹴りを打ってきた!
「ぐげっ!」
これくらいどうってことない!それよりも次の攻撃に備えるんだ!
蹴りを受けた身体が逆回転させられる。はじめに両手を地に付けて転倒を避けてからバク転で距離を取った。
「ステータスを…上げる!」
なんだ!?レイアストが宣言した途端、彼女の何かが変わった!感知系のスキルを持たない私が魔力を感じるなんて!
もしかしてあれは、海割りの前にやるはずだった修行と何か関係があるんじゃ…さっきより慎重に動かないと!
「行くよ!」
速い!もう目の前で攻撃体勢に入っている!フェイントを掛ける必要もないってことか!
「ヌゥン!」
右拳が胸に撃ち込まれると気付いた時には既に両腕のガードが間に合わない状態だった。私は直撃と同時に胸を引いて、バランスを崩さずダメージを下げる選択をした。
「…いっったぁ~!」
そりゃあ身体を引いただけじゃ大して軽減出来ないだろうけど、にしてもこの痛さ!尋常じゃないわよ!
「ハァッ!」
レイアストの右拳が離れた瞬間、正面に掌を向ける形で素早く開かれる。今度は掌底かと攻撃の動きに注目したと同時、謎の衝撃と共に身体が後方へ吹き飛ばされた。
目に見えない程の速さで掌底を打ったのかと思ったけど違う!胸で感じた感触はあの手よりも大きかった!
魔力だ!ステータスの上昇と謎の攻撃には魔力が関係している!
「向こうが魔力ならこっちも魔力だ!」
海割りを続けて魔力を操るコツは掴んだつもりだ。私は両手に魔力を集中させる。理論上、向こうが魔力操作でパワーアップしているのならこれで両手が強化されたはず。これで攻撃をガードする!
「ハァァッ!」
変わらず高速移動を披露し、不規則な動きで接近するレイアスト。パンチか?キックか?
「エルボーか!」
右肘を構えて突進するレイアストを避ける。それで彼女の攻撃が終わったわけではなく、足を止めると反動を付けて右ストレート。私は間一髪のところで拳を掴み止めた。
「さっきよりは痛く…ない!」
だけど凄い疲れる!ガードのためにかなりの魔力を消耗した!
「バテてきたね。あと2、3発入れたら倒れちゃうんじゃないの?」
「まだだァ!」
守るだけじゃ耐えられない!反撃して彼女を消耗させないと!
がら空きの脛に蹴りを打つ。しかし痛い思いをしたのは私だった。
「うぅ~!?なっ!鉄板でも入れてんの!?」
今度は足に魔力を纏わせないとダメってか!?出来るかなぁ…
「これは発動すれば守ってくれる防御の術とは違う。自分の意思で体内のエネルギーを全身に纏わせる、その名も纏意というテクニックだ!全身に纏ったエネルギーはサポーターとしての役割を持ち、外部からのダメージは勿論の事、無茶な動きで発生する負荷からも身体を保護してくれる!」
纏意!それがレイアストのやってる技の正体か!
「ちなみにシエルちゃんがやったのはただ手に魔力を集めただけ…それじゃあこれは止められないよ!」
急接近したレイアストが左拳でパンチ。それに対して構えた両手は、攻撃を受けた瞬間にゴキッという悲鳴をあげた。
「うぅぅ!?」
「その状態では防御は出来ない!さっきは掴撃して私の攻撃を相殺しただけだ!」
ゆ、指が動かせなくなった!もうさっきみたいに掴んで攻撃を止める事が出来ない!
「どうする?今帰るならもう何もしないけど」
「帰るもんですか!こっちは修行付けてもらうために戻って来たのよ!」
こうなった以上、防御を続ける方法は一つ。あの纏意という技を戦いの中で習得するしかない!