第36話 自分のやりたいこと
私は父親であるケイト・ラングリッターと再会し、晴天の下でこれまでの事を話していた。
ただ、私ばかり昔の話をさせられて不公平だった。しかも嘘を見抜くスキルでも備えているのか、少しでも話を盛るとそこを指摘、さらに訂正までさせられた。
「派手な見た目の割に辛気臭い人生送ってんなぁ」
「無理矢理語らせておいて感想がそれ!?そのひん曲がった性格、私の父親だって嫌でも認めざるをえないわね」
「言ってくれるなぁ俺も大変なんだぞ。今だって………」
「………今だってなによ、この浮浪者」
「何でもない。忘れてくれ」
それで自分の事は語らない。何をしてたか知らないけど、ロクなことしてないに違いないわ。きっと犯罪よ犯罪。
少し話したしもう満足しただろう。早く森を出て街を探そう。
「なんだ?もう行っちゃうのか?」
「もう私から話すことはない。それにあんたの方は何も教えてくれないし。ねえ、今まで家に帰らないで何してたの?」
「それは…言っても理解してもらえないことだ。ところで、本当に話せる事全て話してくれたのか?」
「…なに?」
「悩みがあるんじゃないのか。修行から逃げ出した今のお前に、それを打ち明ける相手はいないんだろ。だったら俺には話してみろ」
「話してどうなるってもんじゃないでしょ」
「そのまま口と心を閉ざして生きていくよりはマシって保障するよ」
…私を見つめるあの瞳。修行していた時にブレイズやレイアストに向けられていた物と同じ。真剣に私と向かい合っている瞳だ。
ロクに帰って来ないで何をやっているか分からない男を父親とは認められない。だけどこうして相手をしてくれるのなら、一人の大人として相談するのも悪くない…そう思ったから悩みを口にすることにした。父親として最低なのには変わりない。
「逃げたことに後悔…だろうと思ったよ」
「チゥッ…」
「下手な舌打ちだな。それでお前はもう一度修行がしたいんだろう」
認めよう。この人に見透かされた通り、私はもう一度レイアストの元で修行がしたい。今までの事を思い返している内に、諦めて逃げた事をとても悔しく感じる様になってしまった。まだ全部出し切れてないはずだと、自分への期待も湧き出ている。本当、自分はどうしようもない人間だ。
「だったら戻れば良いじゃねえか」
「でも…自分勝手に逃げ出した事、許してくれるかな」
「そう思うんだったら謝れ。変なプライドでこのまま逃げる方がもっと後悔することになるぞ」
淡々とぶつけてくる言葉が全部カチンとくるけど…これってつまり、図星って事なんだろうなぁ。
「成り行きで修行することになったそうだが、それでもやると決めたのはお前の意思だろ。せっかくの挑戦なのに成し遂げないで終わるのは悔しいじゃねえか」
悔しい…あの時もそうだった。戦わないで逃げた事が物凄く悔しかった。過ぎてしまった物はもうどうしようもない。だけど今ならまだ間に合う。逃げる足を止めて引き返すことが出来るかもしれないんだ。
「…行くのか?」
「父親としては最低だけど…相談する相手としては最高だった。ありがとう」
「そりゃどうも。頑張れよ」
頼まれたり指摘されたからじゃない。逃げたくないという意思から私は修行に戻るんだ。まずはレイアストにちゃんと謝ろう。
そして絶対にケンソォドソーダーを習得してみせる!