第4話 クワァーバルの土
山火事を起こした私達が辿り着いたのは、果物が名産品のシハシヒルズという町だった。
「凄いねここの人達。山燃えてるのに無関心だよ」
「山の炎はここまで来そうにないですしね。それに名産品である果物は地底の農園で育ててるみたいですよ」
お尋ね者が載る掲示板に私達の顔はない。ひとまず安全だ。
「それじゃあご飯にしよっか」
そうして昼過ぎ、私達はようやく食事を取る事が出来た。まだお金には余裕があるから、ここで食糧を買い足すのも忘れないようにしないと。
レストランキサラの中から山の方を伺うと、魔法使い達の水系魔法による消火活動が行われていた。
「あんまり見ない方がいいですよ。怪しまれます」
そう言うカジヤンは肉食動物のように骨付き肉を食べている。ウサ耳なのに。
「それでこれからどうします?私としてはいい加減あなたがその剣を振ってるところを見てみたいわけですが」
「夜まで休んで夜間限定のクエストでもやろうかなって考えてるんだけどどうかな?」
「ではそれでいきましょう」
話がまとまってからの行動は早かった。食事を済ませた私達は冒険者ギルドでクエストの受付。その後は宿へ行き、夜になるまでしばしの休憩。
そして深夜。私達は今、静まり返った街を歩いていた。
「夜間警備って…剣振る機会なくないですか?」
「いや~どうせなら楽で報酬もいいクエストがいいじゃん…あっお疲れ様でーす」
同じクエストを受けている人がいたので軽く挨拶をした。左腕に付けている発光スカーフがその証だ。
「ケッヒッヒ…」
街灯のない薄暗い道を歩いていると露店を開いている薄気味悪いお婆さんを見つけた。
「確かこの区域は…」「露店は禁止されていません。ただ怪しいので一応声かけはしておきましょう」
その方が良いね。カジヤンに言われなきゃそのままスルーしてるところだった。
「おや、若い子達…夜警ごくろうさん」
「そちらこそこんな遅くに露店なんて開いて…客なんて来るわけないですし今夜はもう帰られてはいかがですか?」
「最後に一つ売れ残った物があってねえ…良かったら買っていってくれないかい?」
お婆さんが広げている絨毯には、土の入った瓶だけが売れ残っていた。
「これ買ったら帰ってくれるんですね。何ナロです?」
「2000ナロだよ…顔が怖いねえ」
こんな土カスが入った物にどんだけ値段付けてんだこの婆さん!…まあこのまま残られて事件にでも遭ったら可哀想だし、買うしかないよなぁ。
「はい2000ナロ丁度。もうセコイ商売なんてやめた方がいいよ」
「それはただの土なんかじゃない…失われた大地ユージーンの精霊クワァーバルを閉じ込めておる」
「はいはい婆さん、絨毯畳んで帰った帰った!この中にいるルバーブ様も早く帰れって言ってるよ」
こうして最後の商品を買ったお婆さんは自分の家へと帰っていった。これにて一件落着!
「精霊の話とか聞かなくて良かったんですか?」
「精霊なんて大層な物がこんな牛乳瓶に捕まるわけないじゃない。旅行者を騙す売り文句よありゃあ」
「そう…なんですかね」
こんな物持ってても仕方ないし、公園の砂場にでも捨てておこう。でも容器だけはありがたくいただいておこう。ちょうど火炎瓶の材料が欲しかったし。
まだ夜明けまでには時間がある。万が一もあるから、サボらずにクエストを続けよう。