シエル、バチギレる
ケンソォドソーダー習得のための海を割る修行が始まって1週間が経過した。
シエルちゃんの修行はどうなっているかというと…
「もう嫌アアアアアアアアア!」
スタートしてから成長が見られず、今は砂浜でヒステリックな叫びをあげていた。それに今現在は雨が降っていることもあって、海が割りづらくなってしまっている。
「割れねえじゃんっもおおおおおおお!?」
八つ当たりで岩を殴った剣は二つに折れて墓標のように砂浜に立てられていた。
「…風が強くなってきた」
台風が近付いているとさっきラジオで聴いた。そうなると今のシエルちゃんではとうとう海が割れなくなって、不機嫌を通り越して諦めてしまうかもしれない。
「シエルちゃん!このままだと風邪引いちゃうから一旦中止にしよう!」
「嫌!まだやる!」
すっごい眼で睨まれた…頑張るのはいいけど、情緒が安定してないのにやらせても成長に繋がらないんだよなぁ。
「このまま続けても結果は出ない!休むことも肝心だよ!」
「7日間休みながらやっても結果が出せないんだ!休んだって変わるわけないわよ!」
………本当は海を割る前にもう1つやらなきゃいけない修行があるんだ。第一段階が想像よりも早く達成したことへの期待感、それと私が完成を焦って飛ばしてしまったんだ。
だけど今それを伝えたら…あんなに頑張ってる彼女のプライドに傷付けることになる。
つ、伝えよう。殴られることになっても。私のせいで無理難題な修行をやらせてしまったんだ。時間を奪ってしまったことを謝らないと。
「クソがああああああああ───」
「シエルちゃん!?」
シエルちゃんが倒れた!
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地中に掘った居住スペースにシエルちゃんを運び込む。そして雑草を敷いただけの岩のベッドに身体を降ろした。
雨なのに無茶したのが原因だ。意識はあるようなので解熱剤を飲ませ、しばらく休んでもらうことにした。
「無茶が祟ったわ…」
「ごめん…」
「…潜在呪文とかケンソォドソーダーとか意味わかんないのよ。こうなる前の私はただAランクを目指していただけの冒険者だったのに…万年Bランクで…成長しないって点以外、何もかも変わっちゃったなぁ」
「疲労感で気が落ち込んでるんだ。ほら目を閉じて、今は休むんだ」
「私ってば何か悪い事した?そもそもアイクラウンドで追われるようになったのはカジヤンのせいだし、セスタと違って魔族に差別意識を抱いたこともないのに!」
精神のキャパオーバーを起こしたシエルちゃんが暴れ出す。
彼女を押さえようと肩を掴むが、ありえない程の力で私の身体は壁に投げつけられた。この国に来るまで肉体の鍛錬に集中させていたけど、ここまで強くなっていたなんて!
「やりゃあいいんだろやれば!放せよ!修行するから!」
「そんな体調で修行なんて死にに行くようなものだよ!」
今の彼女には何を言っても無駄だろうから…いっそこのまま死なれるぐらいなら!
「寝ててください!」
「うぐっ…あんたねえ…」
お腹に掌底を打ち込むと、ようやくシエルちゃんは静かになった。
この間に料理をしておこう。目を覚ましたらしっかり食べて体力を取り戻してもらわないと。