第3話 罪人でなくなるために
ムーンタウンから逃げ出した私とバニーラの女の子、自称奴隷28号。私達は緑豊かな山の中へ逃げ込み、そこで見つけた川の近くで休んでいた。
「もうここまで来れば追って来ないっしょ…奴隷28号!なんつーことしてくれたの!私これでもう犯罪者だよ!?もう冒険者続けられないよ~!」
「国外に出ましょう。たかが奴隷一つの窃盗、大した罪には問われませんよ」
こいつお気楽だな~!誰のせいでこんなことになってるか、自覚あるよね?
「それと奴隷28号という呼び方は好きではありません。何かいい名前ないですか?」
「そっか、奴隷契約の能力で本名を封じられてるのか…」
この国カユウは奴隷制度が認められている。この一件で捕まったら私もきっと奴隷にされてしまうだろう。
「あの、名前…」
「鍛冶屋のカジヤン…とかは?」
「そうですね、それでいきましょう。多分これ以上考えさせても似たようなセンスの名前しか出ないでしょうし」
カジヤン結構言葉に棘があるな。仲間にしたの失敗だったかもしれない。
「それで、これからどうするんですか?」
「勇者セスタに会いに行く!」
勇者セスタ・サーティンは1年前、この国を支配しようとしていた魔王を倒した立派な人だ。今は国中を巡って困っている人達を助けているらしい。
「それで私達の事情を話す!雑誌で読んだことあるけどあの人奴隷制度嫌いみたいだから、絶対味方してくれるよ!」
「そう都合よく話が進みますかね。大体、この広い国でどう勇者と巡り合うつもりですか…」
「歩いてればその内見つかる!」
私の頭ではそれ以外の状況打開策が思い浮かばない。きっとこうするしかないんだ。
「ハァ…これからロクな物も食べれないとなると、奴隷のままでも良かったと思ってしまいます」
「私を巻き込んでおいて…まあいいや。そろそろ出発しよう」
コンパスを参考に、私達はムーンタウンがある方向とは魔反対の向きに進んだ。
しばらく険しい道を進んでいると、カジヤンが話しかけてきた。
「無理に山の中を進まなくても良いんじゃないですか?まあ、ここまで進んでしまってから言っても遅いですが」
「道中食糧になりそうな魔物を狩るつもりだったんだけど、中々見つからないね…」
今の手持ちには今晩分の食糧しかない。二人とも釣りスキルが高くないので、川を見つけても食べられる魚が釣れるかどうか怪しいし…
「おっ来た来た」
「ガルル…」
離れたところから、3匹の子を連れたサイギメグリグマが現われた。私達の臭いを嗅いで来たのかな。
「よぉし、やるか」
「えっ子連れを狩るんですか!?」
「ここまで歩いてお腹減っちゃったよ…減ってない?」
「いや、相手クマですけど子連れですよ。追い払えるアイテムありますから、これ使いましょう!」
カジヤンに魔物対策のアイテムを使われる前にクマに襲い掛かった。親は子を守るために戦闘を余儀なくされる。これでこっちのものだ。
「あんたの次には残った子供達よ!だから先に旅立っちゃいなさいな!」
「剣士の戦い方じゃありませんよそれ!」
倒れていた丸太でクマを殴打。転倒させたところに飛び乗って、逆手に持った剣を何度も振り下ろす。
「カジヤン!子供達を逃がさないで!親がいないならどうせ長くは生きられないんだ!全員食糧にしちゃおう!」
「ひえええええ!」
悲鳴をあげるだけのカジヤンは狩りに協力してくれず、結局親クマを1匹しか狩る事が出来なかった。
「これだけの肉があればしばらく大丈夫だね。カジヤン、収納バッグ出して」
「えっ奴隷だった私がそんな物持ってるわけないじゃないですか」
「じゃあこのクマどうするの…」
あぁ勿体ない。まだ日が暮れてないから動けるはずなのに、クマを食べるためにその場に留まらなければならなくなった。
「食べきれない肉はこうして保存パックに入れて…あぁ、カバンパンパンになった!クソが!」
「あの、血の臭いに誘われて凶暴な魔物達が集まってるんですけど…っていうか剣じゃなくて剥ぎ取る用のナイフを使って下さい!剣が可哀想です!」
「あぁ大丈夫、私のフェニックスアルテマスターブレイドは一度も折れた事ないから」
「その剣にそんなに強そうな名前付けてるんですか?!」
さて、これぐらいの量なら女の子2人でも食べきれるでしょ。
「こんなに食べられるんですか…私か弱い女の子ですよ」
「焼けば縮むから心配ないよ」
「そうですね…あれ、調理セットは?」
「ない」
地面に落下すると同時に着火する簡易火打ち石を用意。安全装置を解除して、私達は離れたところから石を投げた。
「丸焼きにするんですか!?ラノベ主人公って必然的に調理の才能与えられてるもんじゃないんですか?キラキラのエフェクトが掛かった料理は!?」
「あんたねぇ、焼くのだって立派な調理よ」
「うわっ………組む相手間違えたかも」
「わ~か~り~み~ふ~と~し~!」
「…チッ」
あ~いい匂いがしてきた。後はお米とかサラダがあれば良かったんだけどなぁ…
「いい匂いしてきたね~そろそろ鎮火しようか」
「鎮火って言い方…」
「…あぅ」
「どうしたんですか?」
「火を消すアイテムないや。どうしよう…」
クマの死骸に着火した炎が広がっていく。命の危機を感じた私達はすぐにその場から走り始めていた。
「山火事じゃないですか!立派な犯罪者ですよこれもう!」
「あんたとさえ出会わなければ!」
「私のせいにしないでください!!!」
こうして山に火を点けた私達はその場から逃走。全力で走っている内にムーンタウンとは別の街を見つけることが出来た。