第24話 険しい道のり
斜面の険しいスティンク高地を命綱無しで下り、スノベラ雪源泉に下った。雪源泉とは地底の水分が冷えて作られた雪が地面の噴出口から噴き出ている自然環境の一種である。珍しいものではなく、雪源泉付近の住民はソリに乗って移動している。
勿論私達にソリなんてない。今も凍った靴を履いたまま雪の上を歩いているのだ。
「し、視界がぼやけてるわ…」
「頑張れ~」
しかしレイアストは複数の直径2メートル物刺しを凍結させることで固定して造ったスキー板で移動していた。全く羨ましい能力だ。ちなみに、頼んだけど修行の一環だと言われて私の分は用意してもらえなかった。
「ちなみにこのペースで進んでいくとあと20時間でアイヴァン平原に着くよ」
「20時間…!?凍えて死んでしまうわ…」
冗談じゃない。こうなったらそこら辺の木を切って、私も雪から足を離せる足場を造らないと。そう考えているとちょうど良く、少し離れた場所に木が1本立っていた。
「ツイてる~」
「あれは…」
伐採してやろうと近付いて剣を打ち込んだ途端、木が動き出した。正確には木に偽装して獲物を待つ植物タイプの魔物、マツヨウビノモクが私を捕食しようと葉っぱに擬態した無数の口を降ろしたのだ。
「や、やば…」
しかし魔物はレイアストが飛ばした物刺し4本を喰らうと怯えて、根っ子のような足を地面から引き抜いて逃げ出していった。
「お~い、大丈夫~?」
「大丈夫な…わけ…」
そしておよそ1時間、私は意識を失っていたらしい。気付いた時には既に雪源泉を抜け、アイヴァン平原の木陰に寝かされていた。
「流石にちゃんとした装備無しで過酷な環境は無理があったね。ごめんごめん」
「ごめんごめんじゃないわ!こっち死ぬところだったのよ!?」
はぁ…こんな調子で無事にイケネミに辿り着けるのかしら…
「…あ、あれ?立てない…っていうか足が動かない?!」
「言いづらいんだけどあなたの足、氷結病に掛かっちゃったんだよね」
氷結病とは身体が外部の魔力と共に凍らされることで発症する恐ろしい病気だ。魔力によって強固になった氷は容易に溶かす事が出来ず、必ず病院へ行く必要がある。
「………病院は?」
「ここから真っすぐ行ったところにタドルモワって大都市がある。そこにあると…いいな?」
「はぁ………チッ」
大都市って…正面の景色は地平線まで続く緑と空の青なんだけど。そのタドルモワまでどれくらい距離があるのやら…
「よっと」
「おぉっと」
凍結病が発症したのは雪に突っ込んでいた足だけ。私は両手を地面に付けて逆立ちの状態になった。
「武器、持っておこうか?」
「このままでいいよ。ブレイズとの時は重量スーツ着たままだったし」
身体を90°回すと、青と緑が逆になった景色が見えた。そして片腕を前へ出し、タドルモワへの前進を始めたのだ。