第2話 一人目の仲間、鍛冶スキル持ちのウサ耳娘
私は未達成のクエストを抱えて、冒険者ギルドのあるムーンタウンへ戻って来た。
「受注したクエスト3つの内達成できたのが2つ。ブルル姫討伐が失敗した場合、リーウィンへの入山許可承諾費用が自腹となります。なのでクリアした2つの報酬から費用分を引いて…7000ナロになります」
「こ、これだけ…っていうか待ってくださいよ!ボスを倒した冒険者達は入山許可取ったんですか!?」
「はい、あなたがクエストを始める少し前に。何かご不満が?」
「いえ、全く」
くそぅ…あの冒険者達がいなければ、私がボスを倒してAランクになってたんだ。それなのに…
「シエル、またクエスト失敗したんだってな。ほらこれ、次の冒険で役立てろ」
「通りすがりの冒険者にボス横取りされたってよ、気の毒だなぁ…財布寂しいだろ。どうせ使わねえからこれやるよ」
私がクエストに失敗して帰ってくると、こうして顔見知り達が色んな物をくれる。回復のポーション、レストランのクーポン券、武器の素材…
最初は嬉しかったけどこれが1年近く続いていると、私はまだ皆の期待に応えられないのかと自己嫌悪してしまう。それでも応援してくれる皆…大好き!だからここは甘えて頼んでみよう!
「あの~!誰か私をパーティーにいれてくれませんか~?」
今回の失敗で気付いたことが1つ。私には仲間が必要だということ。それもAランクに引っ張り上げてくれる強い仲間だ!
「えっ…」
誰も歓迎してくれない!なんで!?
「だってシエルさん、痒い所に手が届かないようなステータスじゃん」
「剣士はもう間に合ってるかな…それに技が全部搦め手なのがねぇ…」
このステータス至上主義者共め!顔を見て顔を!私可愛いでしょ!?パーティーにマスコット欲しくないの?
「パークラ(パーティークラッシャー。つまること友情崩壊)されそう…」
「わ、た、し、が!そんなサキュバスみたいなことする女に見えるのかー!」
「シエルさん、次叫んだら出禁です」
「はい、すいません」
やっぱり仲間なんて必要ない!Aランクには私の力だけでなってみせるんだ!
そうして憤りながら街を歩いていると、剣を並べている露店を見つけた。注目したのは品物ではなく店主だ。鍛冶を得意とするドワーフではなくウサギ系の耳を生やした魔族、しかも私と同じくらいの女の子だった。
「あっ!そこの剣士さん!良かったら見ていきませんか?」
「えっ?あ、じゃあ見てみようかな…」
今のところ剣は買い替えなくても大丈夫なんだけど…まあ強そうな物があったら買っておいてもいいかな。
「どれも自家製ですよ!」
「へぇ~あなたが打ったんだ」
う~ん、どれも微妙な性能だな。鑑定スキルがあるわけじゃないけど評価するならどれもBランク!全部私みたいだ!これは買ってもらえないね!
自分で言ってて泣けてきた…
「…やっぱり、微妙ですよね」
「まあね~どれも微妙かな~」
よし、買わない流れが出来上がってきた。このままこの場所を去ろう!
「あの~」
しかし店から去ろうとする私に向けられた声には少しばかり怒りが混じっていた。正直に感想述べただけなのに…
「剣、見せてもらえませんか?」
「わ、私の?…どうぞ」
ケチを付けるつもりだろうけど手入れは怠っていない。そこ以外なら何に文句言われたっていい。恰好悪い、重くて使いづらい、素材が安い。仕方ないでしょ、初めて造った武器なんだからって開き直ってやる。
「…どう?」
「良い剣です。随分前に造られた物なのにここまで長持ちさせられるんですね…でもいつか限界が来ますよ、これ」
「限界?」
「持ち主や戦いについて行けなくなるということです。そうですね…Aランク冒険者が戦うことになるキングスライム。この刃では弾かれてしまいますよ。それに通ったとして、スライムが技を発動したら折れてしまうかと…どうかしましたか?」
余計なお世話どうもおおお!?こっちはAランクになりたくてもなれないので、そういう心配いりませ~ん!キングスライムと戦う機会があったら良かったでスライム~!
「いい眼をしてるね」
「私達バニーラは眼は良い方魔族ですから」
バニーラ、そういう種類の魔族だったんだ。魔族は沢山いるから全種類覚えてらんないよ。
「私を専属の鍛冶として雇ってみませんか?」
「いいえ結構。私はついさっき一人でもAランクになってみせるって決めたから」
「ソロでAランクに行ける人なんて天才ぐらいですよ。あなたの剣を見て分かった事があります。あなたには自分一人で何でもやっていけるという驕りがある。だからいつまでもこんな自前の古い剣を使っていられるんですよ。Aランクを目指すなら化粧やファッションよりも装備にお金を使うべきです」
「スゥーーー」
落ち着け私…こんなマジレスにキレてたらこの先やっていけないぞ。大体なんで道端で説教受けなきゃいけないの?
「私を1週間そばに置いてください。その剣を今のあなたに合うように調整してあげられますよ」
「本当に出来るの?」
「はい、動きを観察すればどんな風にすれば良いのかぐらい容易に分かります」
信用ならないけど…あそこまで説教してくるんだ。どこまで良い剣になるか試してみよう。それで何も変わらなかったらこいつ、いちゃもん付けて裁判起こしてやる!
「その話乗ったわ。私はシエル・ラングリッター。あなたは?」
「名前ないです…あんまり大きな声じゃ言えませんけど、逃げ出して来た奴隷なんで」
「いたぞ!奴隷28号!」
兵士達が沢山来た!
「それじゃあ逃げましょうか!」
「えっ嘘!?」
「脱走した奴隷28号には協力者がいる!」
「貴族の物に手を出したんだ!殺してしまえ!」
「嘘おおおおお!?」
こうして奴隷28号と呼ばれる彼女と一緒に逃げた私はムーンタウンから脱出。もう戻る場所がない…というか奴隷に手を貸した時点で犯罪者だ!これじゃあもうAランク目指すどころじゃないよね?
一体この先どうなっちゃうの!?