第109話 迎撃戦
魔法陣が完成した次の日、まるでこの時を待っていたかのようにツツジが飛来した。
セスタは防衛隊を、ツツジが迫る北側に集結させた。しかしここで足止めしては魔法陣が意味を成さない。防衛隊には、ツツジが島に入りたいと思わせる必死の防衛を演じてもらう作戦が与えられていた。
「撃てぇ!」
並んだ大砲から一斉に砲弾が放たれる。仕掛けられた魔法によって、ツツジに近付いた砲弾が次々と爆発を起こした。
海上に巨大な黒煙が漂う。しかし、誰一人として迎撃に成功したと思わなかった。
黒煙が刀で切られたように左右に別れ、その中心に浮いていたツツジが猛スピードでクロウへと接近する。それを見たセスタは剣を構え、防衛隊員達に壕への避難指示を出した。
「久しぶりだなぁ!3年も経ったんだ!悲劇のヒロイン症候群は治まったんだろうなぁ!?セスタ・サーティン!」
今のセスタではツツジの一撃は止められなかっただろう。しかし弱体化の魔法陣の内側に入った瞬間、ツツジは大幅に弱体化。ほぼ互角となった敵の一撃をその刃で受け止めた。
「どうあがいたところで私が地獄へ堕ちる事に変わりはないだろう…しかし堕ちるにしても、まずはお前を倒してからだ!」
「な、なんだ!?」
セスタの背後から縄と鎖が飛び出し、ツツジの身体に巻き付く。ブレイズとマユがそれぞれの術で操り巻いた拘束具によって、ツツジは国の中心にある森林へと引き寄せられた。
「うわあぁぁぁぁ!?」
そして特定の位置まで引き寄せられたツツジを四方から、シエル、クルミ、レイアスト、アクトの4人が同時攻撃を仕掛ける。
一早く気付いたツツジは空中へ逃げようと跳ね上がるが、マユの強力な魔法によって元の位置に叩きつけられた。
「「「「ウェポンプレッシャー!」」」」
ツツジにもシュラのように厄介な再生能力があるかもしれない。その対策として開発された技がウェポンプレッシャーである。各々の武器から放つ膨大な魔力でツツジを可能な限り圧縮した後に、マユの魔法によって完全消滅させるという作戦である。
「な、なんだこの技は!?」
「全員!ブレイズが合図するまで全力で押し込むのよ!」
シエル達はタイミングを合わせて一歩ずつ前へ進み、ツツジの姿勢を矯正していく。
「この技…それに島に入った時に感じた違和…そうかそういうことか」
「偉く綺麗な直立じゃない?そのまま90度腰を曲げてみなさいよ」
「俺に謝罪しろってか?嫌なこった!」
謝られたところで許すつもりはない。こいつが全ての元凶なのだ。この状況でどれだけ悲惨な過去を語ったとしても、絶対に倒すという強い意志が彼らにはある。
「ブレイズ!まだか!」
「あと2歩ずつ!そいつの骨が潰れてからプレッシャーを解く!」
「あと2歩…やけに遠く感じるし、足が重いなぁ…!」
それでもレイアスト達はさらに1歩踏み出した。上空では消滅させるための魔法を構えたマユがまだかまだかと待ち構えている。
「こいつはまずいな…スキル発動!」
次の瞬間、ツツジを圧縮しようと踏ん張っていたシエル達がそれぞれ後方へと吹っ飛んでいった。
「なんだ!?」
動揺するブレイズを置いてマユが魔法を放つ。超強力な魔法を喰らったのはツツジのはずだった。しかし、悲鳴をあげたのはマユだった。
「きゃあぁぁぁぁぁ!?」
「痛がるわりには可愛らしい悲鳴だな」
「お前、攻撃を反射させる事が出来るのか…」
木の後ろに潜んでいたケイトが姿を現した。
「ケイト…シュラから弱体化したって話は聞いてるぞ。俺特製のパンドラの矢は効いたか?チート持ちのお前相手に勝算はなかったからな」
「最悪だぜ。寿命を削ってようやく出来る事が浅めの鑑定ぐらいだからな…反射のスキル。分かったのはそれぐらいだ!動けブレイズ!とっくに次のプランに移ってんだぞ!」
「い、言われなくても…」
「次のプランゥ?そんなのさせねえよ!」
ツツジがブレイズに向かっていくが今のケイトではそのスピードに追い付く事が出来なかった。
「はい、プラン終了~!」
そして蹴り飛ばされた彼も先程のシエル達と同じように、島の外側へと吹っ飛ばされていった。
「ケイトのチートは封じたし、特異点らしき転移者ブレイズも無力化…それで?次のプランは?」
「ちょっと上手くいったからってナメんなよ!」
ケイトに気を取られていたツツジの背後にレイアストが現れ、武器である物刺しを振り下ろす。しかし事前の会話を聴いていた彼女は直前で攻撃を止めて距離を置いた。
「反射か…どれだけ反射できるの?」
「すまん、スキルの名前しか鑑定できなかった」
「当てた魔法の威力がノータイムでそのまんま身体に返ってきた辺り…ヤバいのは確かでしょ」
傷だらけになって墜ちて来たマユもなんとか着地し、3人はツツジを包囲。しかし反射という強力なスキルがある以上、迂闊に手出しは出来ない。
「だ、れ、に、し、よ、う、か、な!」
ツツジの指がケイトに向いた。
レイアストは両手で握れるだけの物刺しを召喚。軽く手首を振ってくの字に曲げると、弧を描くように投げ飛ばした。
「まるでブーメランだな」
ツツジは避ける素振りを見せずに感心している。それを見たレイアストは反射ダメージが来ると、全身に力を入れて踏ん張った。
「がぁ!?」
命中した物刺しのダメージが、ツツジではなくレイアストに次々と襲い掛かる。それでも膝を曲げることなく、今度は近接戦闘に持ち込もうと新しい物を召喚した。
「懲りないねえ…ん、身体が動かない」
「反射できるのはダメージだけみたいね」
ツツジの身体がマユの魔法によって動けなくなった。それを見たレイアストは物刺しを構えて、真正面へ突進していった。
「そんなわけないじゃん」
しかしマユの推測を否定するかの如くツツジが動き出した。それからおよそ9秒、拘束していた分だけマユの身体は動かなくなった。
ツツジはレイアストの物刺しを握ると、彼女ごと反対側の地面が割れる勢いで叩きつけた。
「そ、そんな…」
「相手に返すから反射なんだよ。そんな都合の悪い弱点があるわけないじゃん」
レイアストを爪先で拾い上げると、動けるようになったばかりのマユへ投擲。ツツジは邪魔な二人を排除して、目的のケイトにトドメを刺そうとした。
「…あれ?あいつは?」
しかしその場にケイトはいなかった。どうやら戦いの間にどこかへ隠れたようだ。
「まあいいか。まだ俺に歯向かう馬鹿がいるみたいだし」
「馬鹿はあんたの方でしょ。能力に過信し過ぎよ」
ブレイズ、クルミ、セスタ、アクトの4人が変身した大剣を纏い、それに加えて自身の等剣を握るシエル。シュラ・リュウと戦った時の姿をした彼女がツツジを見下ろしていた。
「シエル・ラングリッター…シュラが最も用心するよう言ってた女だったな。仲間の力を自分の力と過信してる馬鹿にしか見えないが…」
「上がって来なさいよ。地上で戦ったら国の皆に迷惑掛かるでしょ?」
「部外者としてはそれで構わないが…まあ、俺も全力でやるとしたら空の方が良い」
ツツジは黒いオーラを漂わせて大地から足を離し、シエルのいる高さまでやって来た。
「シエル!魔法陣から離し過ぎだ!」
「弱体化なんてとっく解けてるわよ。きっと島の中心に引っ張っられてる時に魔法陣を崩したんでしょうね」
「なんだって!?」
「御名答。もっとも、あんな小細工したところでお前らじゃ敵わない相手だったがな」
「だけど安心したわ。この程度のやつなら私達で倒せる!」
お互いの言葉に矛盾が生じる。どちらが正しいかは、この戦いの結末に示されるであろう。
シエルは殴殻斬刃の等剣を構えると、ツツジへ向かって最後の戦いを挑んだ。




