第107話 大天空の大決戦
コルクからクロウへと戻ったシエル達を待っていたのは4体目のシュラだった。
コウベ、シュム、キャクが合わさったゲドウに、クロウを襲っていたビヨクが合わさったシュラ・リュウを前にして、シエル達は臆する事なく構えていた。
「合体してくれて助かった…」
「シエル、レイアスト。コルクと同じやり方でやるぞ」
「そうなると力を一点に集めるためにも、近くで撃つ必要が…避けて!」
小声で作戦会議をしていたところにリュウが突撃してきた。ゲドウの時とは比べ物にならないタックルの餌食となったのは、前回の戦況を大きく覆したレイアストだった。
「おっとぉそうくるよね!」
しかし伊達に修行だけをしていたわけではない。レイアストは足を地面から離す事なく、タックルの勢いにブレーキを掛けた。そしてその背後から、剣を振り上げたブレイズが飛び込んだ。
「2本!」
ブレイズは刀を捨てて自身に迫っていた触手を掴んで止めた。そして残りの触手が4本となったところで、左右からシエルとセスタが挟み撃ちを行った。
「「2本!」」
こうして厄介な触手を封じたのは良いが、では誰が攻撃をするというのか。尋ねる間もなくクロウの戦士達が駆け付けた。
「えぇい!」
いいタイミングで現れたマユは、クルミが変身したミラクルミューズソードを振り下ろした。そしてシュラ・リュウは縦から真っ二つになるはずだった。
「尻尾がっ!」
しかし項から生えた尻尾は勢いよくマユを弾いてしまった。
「…お前達、まさか自分達の力で我を止めていると思っていないだろうな。流石にそんなことはないか」
「なんですって!」
リュウが翼を広げた瞬間、敵を押さえていたつもりでいた4人が衝撃波によって吹き飛ばされた。
「もらった!」
背後へ飛んでいくブレイズを避けて、銛を構えたフラリアが隙を狙う。しかし手の空いた触手が一斉に襲い掛かり、呆気なくブレイズの元へ送り飛ばされてしまった。
シュラ・リュウはゆっくりと空へ浮かんでいった。そしてマユ達しか届かない高度まで上がると、クロウ全体に無差別爆撃を開始した。
「はははははは!マジレスというやつだこれが!お前達では手も足も届くまい!」
リュウが地面にばら撒いているのは、地面や住民に触れた瞬間起爆する魔力の爆弾だった。そしてシエル達は雨のように降り注ぐ魔力の餌食となった。
「うわあぁぁぁぁぁ!」
「悔しければここまで来い!」
爆発を避けると同時に、背後に飛んだクルミが剣を振るう。しかし特殊な加工もされていない剣では、頑丈な敵の首に当たっただけで折れてしまった。
「速いぞぉ!」
リュウは尻尾でクルミを叩き落してから爆撃をやめた。そして頭上に両腕を掲げて、赤と銀が混ざり濁ったような魔力の玉を作り出した。
「少しの退屈凌ぎにもならなかった。今楽にしてやる…ラシェリーアイカギン!」
そして魔力が溜まった一撃をリュウはクロウに向けて投げ落とした。
「させるかよ!」
するとシエルは跳躍した。火事場の馬鹿力という物か、彼女は今までに届いた事のない高さまで向かっていた。そして等剣に魔力を集めて、魔力爆弾ラシェリーアイカギンへと突撃した。
「馬鹿な女だ。抵抗したところで、お前が一番最初に死ぬだけだぞ」
抵抗なんてものではなかった。シエルは爆弾に激突した瞬間に姿勢を崩し、そのまま魔力の中へと吸い込まれていった。
高密度の魔力によって肉体が分解された。シエルの魂は生前戦っていたクロウではなく、椅子とテーブルだけしかない個室で座っていた。
「ここは…地獄?極悪党を閉じ込めておくには最適だけど…なんであんだけ頑張った私が地獄行きなのよ!閻魔に会わせなさいよ!直訴してやるわ!」
「アノレカディアに存在するのは生者の暮らす無限の空間と肉体なき者の魂が集うビヨンドの2つのみ。あなたがかつて暮らしていた世界のような天国と地獄は存在しませんよ」
個室の扉が開いて制服を着た少女が入って来た。当然だがシエルより若い。しかし漂わせる雰囲気から普通の人間ではない事は確かだった。
「シエル・ラングリッターさん。アイクラウンドで巡り合って以来ですね。お身体の調子はいかがですか?」
「え?あぁ…うん。死んじゃったから分かんないよ」
「それもそうでしたね…」
それからしばらく沈黙が続いた。少女はシエルの事を知っているようだが、対してシエルは目の前に座った彼女が何者なのかサッパリ思い出せなかった。
「…その、私達って初対面じゃなくって?」
「会った事ありますよ。あなたがかつて暮らしていたアイクラウンドで。6本の触手を生やした怪物に殺されたあなたに命を与えました。私はこのアノレカディアを守護するClan of Protect Universe、通称CPUの一員の排除と申します。世界に悪影響を及ぼす異分子の排除が私の主な役割です」
「あぁ~そうなんだ死んだ私に~ってえぇぇぇ!?私あの時死んでたの!?そういえばブレイズも、よく分からないやつに助けられたって言ってたわ!」
「その怪物を倒したのは私です。と言っても過干渉を避けるためにあの1体だけでしたが」
「はぁ~そうなの…あ、ごめんね。せっかく蘇らせてもらったのにこうして死んじゃって」
「えぇ、全く残念です」
なにやら幻滅されたようだ。しかしそれよりも気になっていた事を尋ねた。
「ところで私、これからどうなるの?死んじゃったんだよね」
「アノレカディアで命を落とした者はまずビヨンドへ送られ、そこで魂の休養を終えてから次の一生を授かります。次に一生を送るのがアノレカディアなのか、はたまた別の世界なのかは私にも予想できませんが」
「じゃあ私、ビヨンドって場所に行くんだ」
そう言うと排除は黙り込んで唸った。
「このまま何もせずビヨンドへ送っていいものか…シエルさん、戦死したという自覚はありますよね?」
「えぇ。懲りずに出て来たシュラの魔法を受けて…」
「その後、仲間の方々はどうなると思います?」
「まあ…勝つんじゃない?ブレイズとフラリア、昔は敵だったセスタとクルミ、それにマユ。そしてレイアストがいるからね!…あとケイトも」
「それでは…あなただったらどうですか?あなたではなく仲間内の誰かが欠けた時、あなたは自信を持って敵に勝てると言えますか?」
「それは…」
肯定はできなかった。シエルは周りと比べて能力で劣っているという自覚があった。だからクロウでの生活も鍛錬を兼ねて危険な事ばかり行ってきた。しかし、才能を持つ者達と自分の間には高く頑丈な壁が生えているものだ。
「自分はいてもいなくても変わらない。だけど仲間は違う…と?」
「そうかもね」
認めたくはないが認めてしまうシエル。
すると排除は椅子から立ち上がって両手で机を鳴らした。
「もっっったいないです!それ!凄く勿体ないですよ!周りが自分と違って出来る人間ばかりだからって、ここまで頑張ってきた事をこうも呆気なく諦めるなんて勿体ないです!」
「そう言われても…私、死んじゃってるし…」
「ですから、こうなったらもう、出血大サービスです!私、あなたをCPUに推薦します!」
「はぁ!?何急に訳の分からない事を…」
排除はテーブルの下から紙を抜き取り、胸ポケットに入れていたボールペンをシエルに握らせた。
「さぁ!生き返るため、ここに署名を!」
「待たんかい!いきなり紙に名前書けって悪徳業者か!死んだかと思ったらよく分かんない組織に推薦されて、私追いつけてないんだけど!」
「このまま死んで終わってもいいんですか!?」
その一言がシエルの心を揺さぶった。
「あなたの中じゃあなたがやるべき事を全てやり切った上でここにいるのかもしれません。だけどあなたの仲間達はあなたを必要としています!それなのにここで死んでもいいんですか!?あなたより優れた人はいても代わりになる人はいないんですよ!」
シエルは大切な人がいなくなった時の悲しみを知っている。だからその言葉の重みが伝わって来た。
どんな形であれ、死ななくていいなら死にたくない。蘇っていいならもう一度あのシュラと戦って、仲間達を守りたかった。
「…サイン、するわ!私、もう一度戦う!」
「その言葉を待っていました。だけど今回の復活は以前とは違います。あなたはただ生き返るだけじゃありません。CPUの候補である挑戦として再び生を受けるのです」
「簡潔に説明なさい!」
「挑戦の称号を得た瞬間からあなたは不老になります。それから長い年月を掛けて、私達に見極められるのです」
その説明に耳を傾けながらも、シエルは紙の枠内に自分の名前を力強く書いた。
「ほらぁ!名前書いたわよ!早く蘇らせなさいな!」
「勢いは結構…それでは見定めさせていただきます。あなたがこの世界を守る存在に相応しいか…」
クロウ上空から落ちてくる魔力に突撃したシエル。その中へ消えていく彼女を見て、レイアストに動揺が走った。
「そんな…シエルが…」
しかし次の瞬間、シエルの肉体を分解したはずの高密度の魔力が人の形を構築した。
「ど、どういうことだ…」
シュラ・リュウは想像もしていなかった現象に驚愕した。自分が放った技が敵を飲み込んだかと思ったら、その直後に消したはずの敵を再構築したのだ。
「お前…何をした?」
「何をしたかって…?まだ何も。これからよ。これからあんたに勝つ!」
シエルはパワーアップを遂げたわけではない。しかし彼女が放つこれまでにない圧に、リュウは距離を置いた。
「念には念を入れてだ…もっと高いところから、もっと強い一撃でこの国、いや水平線の彼方まで!ありとあらゆる物を消し飛ばしてやる!お前達ごとな!」
守る為に戦うシエル達と違い、シュラはいくら犠牲を出したところで問題ない。そうして宣言した通り、潔く上昇していった。
戦場となっていたクロウが静まり返ると、レイアスト達はシエルの元へ集まって来た。
「シエル!大丈夫なの?!」
「まあぼちぼち。カジヤン。ヂカラセフィラ、使える?」
「は、はい!だけどあんな高さまで逃げられたらいくら強い剣でも…」
「大丈夫、あんたの打った剣ならあいつより高くにだって飛べるわ。ブレイズ!アクト!セスタ!クルミ!」
なんとシエルは、フラリアの剣でその4人を剣にしようというのだ。
「俺達を剣にするつもりか」
「だけど敵は空だぞ?!」
「いやしかし、アクトナイトと私の力はまだ未知数。やってみる価値はあるかもしれない」
「やりましょうよ!それであいつに勝てるなら、やらない選択なんてありえないです!」
こうしてシュラ・リュウを討つための作戦が決まった。
剣となる4人はギチギチになるほどに肩を合わせて並んだ。彼らを剣へと変えるフラリアは一呼吸すると両手を頭上で合わせてから、力強い声で呪文を叫んだ。
「それではいきますよ…ヂカラセフィラ・グランケン・メガント!」
フラリアの頭上にハンマーの形をした巨大なエネルギーが出現。両手を振り下ろす彼女の動きに合わせて、エネルギーは4人の身体を飲み込み、大剣へと変身させた。
「ブレイジングリフレクトソード!」
「ミラクルミューズソード!」
「アクティブフライトソード!」
「セイバースプリームソード!」
大剣となった4人の戦士は柄をアームへと変形させてシエルに取り付いた。左右にそれぞれ2本ずつ、左側は肩はクルミ、上腕にブレイズが。右側は肩にアクト、上腕にセスタと、剣の位置が対称になる形での接続が完了した。
「と、飛べそうですか?」
「ありがとう!飛べるよ!…それじゃあシュラのやつをぶった斬って来る!行くわよ!」
「「「「おう!」」」」
アクトが変身したアクティブフライトソードの力によって、4本大剣は翼としての力を得る。シエルがシュラのいる天空へジャンプすると、そのまま凄まじいスピードで上昇していった。
雲よりも高い位置。シュラはクロウを消し飛ばすための魔力を溜めていた。
「こうも呆気ないとは…なにっ!?」
しかし雲は真っ二つに裂け、真下から4本の翼を生やしたシエルが飛翔してきた。
接近してくる以上、迎撃する他ない。魔力は充分ではないが、それでも先程地上で撃った物よりも威力のある一撃をシエル目掛けて投げ落とした。
「俺が止める!」
すると剣となったブレイズが盾となるように前へ出る。そしてシュラの放った一撃をその身で吸収し、繋がっていたシエルと他3人の力へと変換した。
「なぁ!?我の一撃が!おのれぇぇぇ!」
必殺を防がれたシュラは接近戦に持ち込んだ。シエルはセイバースプリームソードを取り外して握り締め、6本の触手に反撃した。
「はぁぁぁ!」
残る3本の剣がそれぞれ触手を2本ずつ相手している間に、がら空きとなった胴体にシエルが一撃を放つ。そして遠くへ吹っ飛ばした敵の背後に、大剣となっているクルミの能力でワープした。
「まだ終わらない!」
再び一撃を加えると、シュラの向かう先へワープして更に一撃。圧倒的な力を誇っていたシュラが、今ではシエル達に成す術なくやられていた。
「おのれぇ!おのれぇぇぇ!」
「「「「「イクスシルエットチャージ!」」」」」
4本の刃がアームから分離して、シエルの背後でXの形に並ぶ。シエルは右腕を掲げると、シュラ・リュウを倒すための力を溜めた。
シュラも全身の力を振り絞り、3度目にして最大火力となる魔力を生み出した。
そして両者の必殺技は同時に準備が完了し、同じタイミングで放たれた。
「「「「「シエルナイトスラァァァッシュ」」」」」
「死ねえええええ!」
シエルは右腕から伸びる虹色の刃をそのまま振り下ろした。真っすぐに伸びる虹は膨大な魔力を触れた直後に無力化し、その後ろでやり切った様子でいたシュラ・リュウを真っ二つに切り裂いた。
「わ、我らが負けた…」
「虹と共に消えろ!」
「く…一番警戒すべきなのは…うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
シュラ・リュウの再生は叶わず、その断面から光へと分解されていく。こうして今度こそシエル達に敗北したのであった。
地上へ戻ると、限界を迎えたブレイズ達が元の姿に戻った。
「シエルさん!あいつやっつけたんですね!」
「うん。今度こそ復活することはないと思う。また出て来ても今回みたいに力を合わせてやっつければいいしね」
シュラを撃破したシエル達。残る敵はツツジのみであるが、今はこの勝利の喜びを分かち合った。




