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第106話 補欠

 レイアストの元へ包帯を巻いたケイトが戻って来た。どうして迎えに来てくれなかったのかと残念がったが、彼女の弟子達の姿を見て仕方がないかと納得した。



 シュラを倒した今、ツツジがどのような動きを見せるかは予想が付かない。しかしシュラの口振りからして狙われているのがブレイズとケイトであるのは明確だ。わざわざコルクに残って無関係な住民を巻き込むわけにもいかないだろう。


「それで、これからどうするの?」

「それについては考えてある。ケイト、お前は俺達と共にクロウへ移ってもらう」

「こいつをクロウに!?どうして!」

「気に喰わないのは分かる。俺もこいつは嫌いだ。しかしツツジとの決戦を迎えるにはあそこほど適した環境はない」

「決戦ってあんたまさか…」


「主要メンバーに加えてクロウに残る住人であいつを迎え撃つ」

「何馬鹿なこと言ってんのよ!?」

「無理強いはしない。戦いを望まない者は逃がすつもりだ…ツツジの目的はこの世界ではなく、俺達が元いた世界。その邪魔になる俺とケイトを抹殺する事だからな。負けてもこの世界への被害は最小限に抑えられるはずだ」

「言い換えれば、あいつに俺達の身を差し出せばこれ以上この世界で悪さはしないってことかねぇ…そう睨むなよ。ちゃんと抵抗するって」


 そうは言うが、ケイトはパンドラの矢を受けた事でこれまでの様な絶大な力を発揮する事は出来なくなっていた。


「レイアストは…来てくれるよね?」

「うん。きっとツツジっていうやつをやっつけるためにこの世界に来たんだ。君もそう思うよね」


 レイアストは同じ牙髪を持っているアクトに共感を求めた。


「あぁ。あいつを見たのは3年前だが、物凄い邪悪なやつだった。きっと今も力を蓄えてるはずだ…名乗るのが遅れたな。俺はアクトナイト。新人のメアリスだ」

「私はレイアスト。今までシエルちゃん達のこと、ありがとうね」

「こちらこそ。こいつらのおかげで倒すべき相手にまで辿り着けた」


 メアリス同士、気が合うのだろう。そのまま世間話をしようとしたところに、シエルが割って入った。


「あのさぁ!レイアスト!」

「どうしたの、大きな声出して」

「シエルちゃん…はやめてくれない?もう私26歳だから」

「…そうだね。ここまで戦って来た君達に、子供みたいな敬称は失礼だ。シエル、ブレイズ。これでいい?」


 それは自分達を一人前だと認める事でもあった。シエルはえっへんと誇らしげに胸を張っているの他所で、ブレイズも静かにガッツポーズを取っていた。




 コルクには転送屋はない。なので帰りも行きと同じで海路を通る事になる。シエル達は馬鹿の一つ覚えである丸太船ではなく、丸太そのものを結び合わせた筏を造って、クロウへ向かって出発した。


「また2日間漕ぎっぱなしか…」

「しかしレイアスト達もいる。5人で漕げば同じ距離でも早く移動できるはずだ」

「そっか…そうよね」








 ブレイズが言った通り、行きに2日要したのに比べて、5人で漕いだ丸太の筏は1日でクロウ近辺の海域まで辿り着いた。


「あの島がクロウ?孤児とか奴隷にされそうだった人達が国民になったっていう」

「そうだよ。あそこには今、カジヤンの他にも仲間になったセスタとその弟子もいるの!」

「仲間…いい響きだね」


 腕が疲れてきた。レイアストは一度オールを漕ぐ腕を止めて休憩に入った。




 しかしその直後、クロウの方で大きな爆発が起こったのである。


「ん!?なんなの!?」

「島の中から鳥のモンスターが…あれは鳥なのか?!」


 望遠鏡で島の覗いたブレイズは自分の発言に疑問を持った。彼が見ているその生物は、ヒラメの様に薄い本体から翼と尻尾しか生やしていなかったのだ。どう見ても口や目などが見当たらず、その不気味な姿はシュラ達を連想させた。


「急ぐわよ!」



 シエル達は筏から飛び降りると全速力でクロウに上陸した。しかしその間にも、空を飛んでいたモンスターは地上に向けて何撃を落とし続けていた。


「翼のある者は敵周辺を旋回して陽動!地上からの流れ弾に巻き込まれるな!」


 セスタの指示の元、飛行能力を備えた魔族がモンスターの周囲を飛び回り気を引く。そして地上にいた防衛隊が一斉に飛び道具で攻撃を行った。しかし矢は届かず、わずかに命中した大砲の弾も有効打にはならなかった。


「調子悪そうね」

「戻って来たのか!ご覧の通りこの有様だ。突如現れて仕留めようとしたところ、あの高さまで上がられてしまった…」


 空中では魔族の他にも、連続してワープを繰り返すクルミと魔法で浮遊するマユが攻撃を行っていた。


「マユは前の強い姿にならないの?」

第一潜在呪文(ファーストスペル)か。何度か唱えたが発動しなかった。まだ発現したばかりで安定していないのだろう」

「マズいな…レイアスト、飛べるか?」

「ご覧の通り、翼なんてないょ」


 地上での戦闘を得意とする者達に対しての答えとも呼べる戦術であった。モンスターはしばらくすると島の上を旋回して、爆撃機のように乱雑な攻撃を始めた。もはや地上にいる者達を敵とも思ってすらいないのだろう。


「ナメられてるわね…空中の部隊を引っ込めて。私達のケンソォドソーダーでなんとかやってみる」

「了解した。空にいる隊員達は今すぐ地上へ戻れ!強力な技が昇るぞ!」


 ケンソォドソーダーの使い手であるシエル達が空中を呑気に飛んでいる敵に狙いを定める。

 モンスターが周囲の敵の行動に疑問を感じた時には既に遅かった。


「「「はぁ!」」」


 3人の魔力が合わさった不可視の斬撃がモンスターへ向かう。当然見えなければ対策どころか気付く事すらままならず、モンスターは直撃を受けた。


「このまま塵も残さず削り切る!」


 力を出し切ろうとしたその時だった。シエル達の元へ何かが接近して邪魔をした。


「なんだお前は!?」


 セスタは初めて見るシュラ・キャクの蹴りを防いだ。しかし残るコウベとシュムはアクトとケイトの妨害を振り切って、3人にタックルをかました。


「そんな!?」

「お前達は倒したはずだ!」


 レイアストは怯む事なくコウベに突きを繰り出し、一撃で粉砕する。しかしコウベを倒しても別のシュラが健在な場合、その身体は元通りに戻ってしまうのだ。

 レイアストは弱体化しているケイトを庇える位置へ移った。


「我はシュラ・コウベ」

「我はシュラ・シュム」

「我はシュラ・キャク」


 シュラの3体はコルクにて合体してシュラ・ゲドウとなった。そしてレイアスト達の力を合わせたケンソォドソーダーによって消滅したはずだった。



「まさか破片が残ってたのか…?」

「その疑問は我が名乗れば解明するだろう」


 すると突然、空にいたモンスターから声が聴こえた。誰かが乗っている様子もなく、どうやらモンスター自身が喋っているようだ。


「我が名はツツジ率いる四天王の補欠、シュラ・ビヨク…どうだ、驚いたか」

「なんで四天王に補欠があるのよ!」

「お前達はゲドウとなった彼らを確実に仕留めた。しかし万が一に備えていた我が残っていた事で、彼らは再生できたのだ」

「そういうこと…それで?これで全員なわけ?」

「そうだ。シュラの総力だ。ここにいる者は全員殺す」

「良かった…じゃあここであんた達を倒せば残るはツツジだけってことね!」


 シエルは強気な姿勢を崩さない。それがビヨクにとっては滑稽だった。


「ふふふふ…はははははは!面白い!ではこの姿を見ても、お前達は我らに勝てると思えるかな!?」

「触手の奴を狙え!」


 合体を予測したブレイズ達が胴体となるシュムへ襲い掛かる。しかし急接近したビヨクの突撃によって阻止されてしまった。


 コウベ、シュム、キャクが合体した事で再びシュラ・ゲドウが姿を現した。さらにその背中へビヨクが張り付き、項からは尻尾、臀部からは翼という前回より増して歪んだ姿となった。


「我はシュラ・リュウ。この中で最強とも言えるメアリスの女でも、この姿となった我には敵わないぞ」



 シュラ・リュウ急誕。レイアストでも敵わないと告げたこの化け物を相手に、彼らは勝つ事ができるのか。

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