第102話 記憶は記憶
留置場に閉じ込められていたシエルは、夜になったのを確認すると檻を破って脱獄。殴殻斬刃の等剣も忘れずに回収して、進太郎の家へ戻った。
暗くなっているというのに進太郎の両親はおろか、彼自身もまだ帰宅していなかった。
「窓から侵入よ~っと」
シエルはブーツを抜いで進太郎の部屋に入った。それから何か食べ物を貰いに、冷蔵庫を探しに部屋を出た。
「キッチンキッチンキッチンは~…ん?」
台所を探していたシエルはリビングに気になる物を見つけた。それは進太郎の姉の仏壇だった。
「そういえばあいつ、姉さんって…故人だったんだ」
シエルは姉の写真を手に取った。そして写真の中の少女と目が合った瞬間、爆発するような頭痛が起こった。
「あああああああああ!?」
シエルの頭の中で覚えのない景色が巡り始めた。それは過去の記憶である。それもシエルではない頃、アノレカディアの人間として産まれてくる前の物だった。
弟とコンビニに来ていたシエルは運の悪い事に、強盗と巡り合ってしまった。パニックを起こした弟は強盗の方へ向かっていき、それを庇って彼女は凶弾を喰らった。そして命を落とした。
それからも記憶は続いていた。シエル・ラングリッターという少女として産まれて、最近まで人並みの人生を送って来たのだ。
「山桐…愛。シエル・ラングリッターじゃない。私、山桐愛だ!」
頭痛が治まった時、シエル・ラングリッターは前世の記憶を取り戻した。山桐進太郎の姉、山桐愛であった頃の記憶を。シエルとブレイズは前世では姉弟だったのだ。
「そうだ…私、あいつを庇って死んじゃったんだ…だけどどうして今になって…?」
記憶を取り戻したキッカケが前世の写真を見たから…というのは説得力がなさすぎる。シエル・ラングリッターとしての過去を振り返ってみたが、記憶を取り戻す要因になりそうな出来事に覚えはなかった。
「なんで…かしらねえ…おっと」
エンジン音を聴いたシエルは音を立てずに進太郎の部屋に戻っていった。
しばらくすると土産の菓子を持った進太郎が部屋に戻って来た。
「お、おかえりなさい」
「あぁ…どうかしたか?」
「なんでもないわ」
余計な感情を抱かせてはならない。シエルは自身が愛である事を打ち明ける事はせず、戦友であるシエル・ラングリッターとして生きていく事を選んだ。
「ねえブレイズ。あんた、もしも死んでアノレカディアに記憶を持ったまま転生して、それでこの世界に帰って来たらどうしてた?親に会ってた?」
「そうなっていたら…顔も合わせなかっただろうな。死んだ人間が目の前に現れたところでパニックになるだけだ」
「それもそうね。ありがとう」
当然、弟だけではなく両親にも伝えようとは思わなかった。
山桐愛だった頃の記憶を取り戻しても、彼女が蘇る事はない。
今必要とされているのは山桐愛という一般人ではなく、戦う力を持つシエル・ラングリッターなのだから。




