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第100話 進太郎という少年を知る者

 父親は息子が帰って来た事を知ると、務めている大手企業の命運を握る案件すら放り出して自宅に帰って来た。そして母親と同じように、抱きしめて泣いて喜んだ。


 その日の山桐家の夕食はこれまでにないほど豪華だった。4年ぶりの母の味に、進太郎は涙を流しながら箸を動かした。


「超おいしい…凄くおいしい…!」

「それは良かったわ。たくさん食べなさい」


 進太郎がアノレカディアにいたのは4年間である。はじめの1年間をレイアストと共に過ごし、その翌年にはセスタとの戦いがあった。そしてこちらの世界で自分が行方不明になったがちょうど4年前という事は、この世界とアノレカディアに時差はないという事である。

 浦島太郎のような状態にならなくて良かったと、心の底でホッとしていた。




 落ち着いてから、進太郎は自分の身に何があったか、4年間の出来事を全て話した。アノレカディアという異世界の話を聞いて両親は困惑していたが、日本じゃない場所に連れて行かれて、そこで助けてくれた人達と一緒に過ごしていたと言うとすぐに納得してくれた。


 長い間行方不明だったというのにその説明だけで納得してしまうとは、息子とは違い能天気な両親である。


「だけどどうしようか。4年間も行方不明だったから中学校も受け入れてくれるかどうか…」

「まあ、明日の事は明日考えるとしよう。進太郎も凄く疲れてるみたいだし」

「それもそうね。進太郎、お風呂沸かしてあるから、ゆっくり浸かって今日は休みなさい」

「ありがとう。それじゃあお先に」


 そうして風呂に入って自室に戻った進太郎は、自分のベッドに寝かせていたシエルの存在を思い出した。


「目は覚ましてないのか…?息はしてるな」


 進太郎は部屋に置いてある柔らかいクッションに座り、スマホで情報を集めながらやがて寝落ちした。






「ブレイズ…ちょっとブレイズってば!」

「姉…さん…?」

「何寝ぼけたこと言ってるのよ。それよりもここどこ?なんで私はベッドで目覚めたわけ?」


 次の日の朝、進太郎は1日掛けて意識を回復させたシエルによって起こされた。


「眠い…」

「はぁ?ちょっと起きなさいよ!」


 進太郎は重い瞼をなんとか持ち上げて立ち上がった。昨日は両親に異世界の話をしたが、今日はシエルにこの世界の話をすることになった。


「ここは俺の世界だ」

「あぁそう…そうなのね」

「やけに落ち着いてるな」

「騒いだって仕方ないからね。それよりもこれからどうするの?アクト達もきっとこの世界に来てるはずだし、合流する?」

「何か方法でもあるのか?」

「あ…ないわね」


 こうして早速、手詰まりとなってしまうのであった。



 進太郎はパソコンを起動して最新のニュースが集まるサイトを開いた。3年経っても相変わらず、読んだ者の情動を駆る事を目的とした記事ばかりが集まっている。彼が欲している情報はなかった。


「異世界でもPCの使い勝手は変わらないのね…リアルタイムで調べてみれば?」


 シエルのアドバイスを聞いてその通りにやってみたが、やはりというか余計な情報しか見つからなかった。こうして見れば、記者が必死になって書いた記事と、SNSの住民のいい加減な発言になんら大差はないのかもしれない。


「お腹空いた…」

「台所から何か取って来る。少し待っててくれ」



 冷蔵庫まで向かうと、調理が必要ないカニカマやハム、チョコレートなどをビニールに詰めて部屋に戻った。


「私は内緒で飼われてるペットか何か?」

「概ね合ってるだろ」


 二人は朝食を済ませて、両親が仕事に出るまで部屋の中で待機した。そして駐車場から車が出ていくのを確認してから玄関に向かった。


「ようやく部屋から出れた…」

「行くぞ」

「行くってどこに?」

「街を見て回る。もしかしたらアクト達もこの付近にいるかもしれない」


 進太郎は異世界の服の上からジャケットを羽織り、シエルには母親の服を貸し出して家の外へ出た。



 電線の上で鳥が囀っている。その光景も久しく忘れていた。セスタとの戦いが終わった後も仲間達を守る戦いを続けていた彼の心に、ようやく平穏をというものが訪れた。


「平和ねえ」

「今はまだ発展途上なクロウもこうなって欲しい物だ」

「それにはまず、この世界からアノレカディアに…あんた、ここが元いた世界なのよね?せっかく帰って来れたのにまた行くの?」

「当然だ。あそこにはフラリアがいる。それになんとしてもツツジは倒さなければならない」

「ご両親はいいの?」

「きっと分かってくれる」


 しばらく街を歩き回っていると、遠くの方で大きな音が聴こえた。何が原因かは分からないが、進太郎とシエルは反射的に現場へ向かって走り出していた。


「もしかしてシュラが!?」

「力がある今の俺なら…!」



 二人が辿り着いたのは都内の公立高校だった。その校舎をシュラ3体のどれとも違う巨大な怪物が襲っていた。


「なんだ、あいつの放つ邪気は…!」

「とりあえず倒すわよ!」


 正体を探るのは後だ。

 進太郎は第一潜在呪文で怪物と校舎の間にバリアを発生させた。そのバリアを駆け上がったシエルは怪物を蹴り飛ばして校舎から遠ざけた。


「まるで2本足で歩くデカい亀ね!どうする?」

「柔らかい手足…を狙って攻撃していては時間が掛かる。あいつの甲羅を叩き割るぞ!」


 シェルモードの等剣を握り締め、シエルは亀の背後に回る。進太郎は潜在呪文と忍術を駆使して、亀が校舎に近付かないように牽制した。


「叩き割るってもねえ!亀の甲羅って本来割れないよう出来てるんだから!」


 シエルは叩く飛び上がって、一撃で割るつもりで剣を振り下ろす。しかしそう簡単に砕ける物ではなく、着地したシエルは再度同じ攻撃を繰り出した。


「まだかシエル!?」

「急かすな!」


 諦めずに何度も叩いた事で甲羅にヒビが走った。シエルはその一点に攻撃を集中して繰り返す事で、とうとう甲羅を破壊する事に成功した。


「よぉし!ナイトモード!」


 等剣の殻が消失して鮮やかな刃が姿を現す。そして甲羅を砕いた先に現れたコアのような物体を勢いよく貫いた。

 すると怪物はその場に倒れて動かなくなり、その巨体は光となって消滅した。




 怪物を倒した二人だったが呑気にしている場合ではない。騒ぎが起こってしまった以上、警察が来る前にこの場を去る必要がある。


「…こ、この疲労感…」

「アノレカディアじゃないからか…?」


 しかし短期決戦だったのにも関わらず、二人は膝を付くまでに消耗してしまっていた。

 やがて様子を見に来た教員と生徒達、さらには通報を受けて駆け付けた警官隊によって二人は挟まれてしまった。


「なんなんだ今の怪物は!?」


 教員達は生徒を脅かした怪物について尋ねる。シエル達もよく分からないので答える事は出来なかった。


「そこの女!武器を捨てて大人しく投降しろ!」


 事が片付いてから現れた警官達は傷付いた校舎と剣を持ったシエルを見て、彼女がこの学校に危害を加えたと判断した。


「はぁ…ブレイズ、あんた走れる?」

「無理だ…肩を貸してくれ」

「私も頼もうとしてたところ…参ったわね」


 シエルは剣を手放して両手を挙げた。捕まってやる義理はないが、抵抗して傷付けたらもっと騒ぎが大きくなってしまうと諦めた。


「適当に脱走したら家に戻るから」

「分かった。俺の部屋の窓の鍵は開けたままだ。そこから入れ」


 そうして銃と盾を構えた警官達が近付いて来たその時、制服を着た少女がその身一つで彼らの前に立ち塞がった。


「待ってください!進太郎君達は私達を守ってくれました!何も悪い事はやってません!その証拠だってあります!ほら!」


 銃口が自分に向いているのにも関わらずヅカヅカと全身する少女。そして手前に立っていた警官達に学生の心臓たるスマホを押し付け、戦いの映像を見せつけた。


「な、なんだこのデカい亀は…!合成じゃないのか!?」

「こんな映像作れるわけないじゃないですか!ここ公立ですよ!」

「デタラメを見せるな!」

「私以外にも撮ってる人いますよ!とっくにネットに上がってると思いますけど、それ見ても合成って言えますか!?」

「…それとこれは別だ。彼女は銃刀法違反で現行犯逮捕だ!」


 警官が少女を突き飛ばそうとしたその時、いつの間にかそばまで来ていたシエルが腕を掴んだ。


「ありがとうね。ほら来たわよ。さっさと手錠掛けなさいよ」

「ちょっと待ってくださいよ!この人は──」

「こんな危ないお姉さんよりも気になる人がいるんじゃないの?」


 シエルは進太郎の方に目を配ると、素直に手錠を掛けられて連行されていった。




 少女は進太郎の元へ、彼の名前を呼びながら駆け寄った。


「進太郎君!」

「お前は…」

「透だよ!船並(ふなみ)(とおる)!」


 船並透。それは進太郎の幼馴染の名前であった。

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