勇者が魔王を倒すまでの話
シエル達の物語が始まる1年前。アイクラウンド公国で、勇者セスタ・サーティンと魔王カーナ・デモノスが熾烈な戦いを繰り広げた。
セスタは10歳の頃まではイキガミという苗字を持ち、大きな屋敷で暮らしていた。しかし彼女の才能を見抜けなかった無能でカスな両親によって屋敷から追放。縁を切られた彼女は13番目の娘という皮肉を込めて、サーティンという苗字を付けた。
5年後、冒険者として活動していた彼女は3人の魔族とパーティーを組んでいた。錬金術師エルフのエリク、ビーストテイマーハーピーのサイラ、騎士オークのルナ、彼女が駆る紫色のユニコーン、バイオレット。
しかしある日、セスタは人間だからという理由でパーティーの仲間達に裏切られて殺されてしまう。
そんな彼女を蘇らせたのがツツジ老師であった。彼から魔族の危険性を説かれたセスタは、その魔族を統べる魔王カーナを倒すことを決意した。
セスタは修行の一環として自分を裏切った仲間達を殺した。耳が腐るような悲鳴をあげていたのを彼女は覚えている。しかし可哀想とは思わない。裏切った者達が悪いのだと納得していた。
イキガミの姉達が汚点であるセスタを殺そうと総出で攻めて来たこともあった。しかし彼女は全員を返り討ちにした後、見事な情報操作でイキガミ一族を社会悪と認識させて両親への復讐を完了。そして姉達を富豪な男達に高い値段で売り捌き、その儲けで魔王との決戦に備えた。
そして、1年にも及ぶ勇者と魔王の戦いが始まった。両者休むことなく、公国の中心地武雷河で剣を交えた。
戦いの余波で天変地異が起こり環境は滅茶苦茶になった。そして2人に触発された人間と魔族が争いを始め、アイクラウンドは混沌と化した。
戦いが始まり1ヶ月後には平和と呼べる場所はなくなった。戦いを望まない者達は影響の及ばないダンジョンの中へ避難を余儀なくされた。
2ヶ月後には戦いの中で成長していった者同士が激突。3ヶ月後はその者達の膨大な魔力によってアイクラウンドという大陸は海面から1キロメートルほどの高さまで浮いた。
4ヶ月経つと、転生学者アオイ・タチバナによって人間達は死んでもすぐに転生できるローコストボディを。魔族側は錬金術師シンエッグ・テンペニウムが朱雀の涙という蘇生薬をそれぞれが開発。これによって戦う者達の命は砂よりも軽くなり、1日に1000万を越える死体が出るようになった。
開戦から5ヶ月。何者かが開発した全生命平等殺戮兵器、死ノ血世が起動。1日に発生する死亡回数が1億を越えた。そして死ノ血世を危険視した一部の者達によって兵器は破壊された。
6ヶ月が経過した時、突如自身を神と名乗る男サイミアが出現。激化するだけで終わりの見えない争いに嫌気がさし、この大陸に存在する生命全てを抹消することを決定し攻撃を始めた。恐ろしい事に、サイミアの攻撃によって死んだ者は転生することも蘇生することも叶わないのだ。
勇者セスタと魔王カーナは神を冠する男を相手に手を組んだ。サイミアとの戦いを6ヶ月間続けてこれを撃破。そして訪れたのが、決着となる最後の一日だった。
勝利したのは勇者セスタ・サーティンだった。アイクラウンドの支配を目論んでいた魔王は敗北。しかし、サイミア撃破の功績もあったためトドメは刺されず、彼がどうなったかを知る者はいない。
これが勇者が魔王を倒すまでの話である。知っての通り、現在セスタはアイクラウンドを巡って人助けの旅をしている。