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第99話 進太郎、帰還

 ケイト、アクトの二人よりも先に別世界へ飛び出したシエルとブレイズ。二人は一軒家の庭に意識を失った状態で倒れていた。先に目を覚ましたのはブレイズだった。


「ここは…」


 下敷きになっていたシエルを揺すったが、クッションになってしまったからか目を覚まさなかった。

 仲間がこんな状態なのに、それよりもと表現するのは酷いかもしれない。しかしブレイズは今いる場所が気になって仕方がなかった。


「俺の家の庭だ…ほ、本当に帰って来たのか?東京に」


 ブレイズはシエルを抱えて玄関の方へ回る。チャイムを押して誰かが出るのを待ったが、反応はなかった。


「住人が変わってたりは…してないな。車がないという事は…今日は平日か。なら誰もいないのも当然か」


 ブレイズは腰に付けていたポーチを漁り、異世界に転移した時に持っていた自宅の鍵を取り出した。




 ブレイズと名乗っている山桐進太郎が異世界に渡ったのは、学校から家へと向かう逢魔が時であった。

 友人達と別れた彼は自宅への近道となる路地を歩いていた。そんな彼以外に誰もいないその道の先に、突如謎の門が出現。開いた門は逃げようとする進太郎を吸い込み、彼をアノレカディアへ引きずり込んだのである。


「アノレカディアで一生を終えると思っていたのに…まさか帰って来られるなんて…」


 進太郎の持っていた鍵で扉は解錠し、彼は恐る恐る家に入った。


「ワンワンワンワン!」

「い、犬!?」


 誰もいないと思っていた玄関でチワワが出迎えてくれた。どうやら進太郎がいない間に飼い始めたようだ。


「初めてなのに人懐っこいな、お前。番犬失格だぞ」


 チワワが満足するまで撫でてから家に上がると、まずは自室へ向かった。久しぶりに入った自分の部屋に変化は感じられなかった。しかし進太郎は気付いた。自分がいつ帰って来ても大丈夫なように、部屋を綺麗に掃除してくれていることに。


「ありがとう…父さん、母さん」


 ベッドに寝かせたシエルがいつ目覚めても大丈夫なように書置きを残して、進太郎は家の中を探索した。一部の家電製品が新しくなっていたりしたが、やはり一番の違いは家族が増えていた事だろう。両親が帰って来たら名前を尋ねなければならない。


 進太郎は自分がこの世界へ戻って来た理由をすっかり忘れていた。ここへ戻って来てようやく思い出す事ができた大切な記憶もあった。向こうでの戦いの日々は、それすらも忘れさせてしまったようだ。



「…姉さん」


 しかしそれでも、実の姉の事だけは一日たりとも忘れた事がなかった。進太郎は仏壇の前に正座して合掌し、異世界から戻って来た事を伝えた。


「俺、生きてるよ…あの日、姉さんが守ってくれたから」


 あの日とは、進太郎の姉の命日である。




 9年前の夜。両親に叱られた進太郎は自宅から飛び出した。言うなれば家出である。

 進太郎の姉はその後を追いかけ、近所の公園で彼に追いついた。両親には本当に些細な事で叱られた。それでも姉は進太郎の味方だった。


 それは甘やかしだったのかもしれない。この世界に神がいるとすれば、その別れは姉に甘えてばかりの進太郎への試練、あるいは罰だったのだろう。


 両親の機嫌を直したいと言った進太郎のために、彼を連れて近場のコンビニへやって来た。両親の好きそうな菓子をカゴに詰めさせて、後は会計を済ますだけだった。しかしそこへ強盗が入って来たのである。

 彼らは不運だった。店員が指示されるがままに紙幣をレジ袋に詰めている間、強盗の視線がピストルと共に進太郎達の方を向いてしまったのだ。


 パニックになった信太郎は距離のある強盗に向かっていこうとして、冷静だった姉はそれを止めた。しかし強盗は躊躇わずに発砲。弾丸は姉の命を奪ったのである。



 それから毎晩目を閉じる度にその時の光景を思い出してしまった。自分のせいで姉は死んでしまったのだとひたすら自責した。


 しかし異世界での出来事が彼を成長させた。やがて自分を責める事をやめて、救われた命を誰かのために使おうと考えて行動するようになったのだ。




 夕方頃、外から車の音が聴こえた。緊張する信太郎は深呼吸してなんと落ち着こうと頑張りながら玄関の前に立った。


「あら?鍵を閉め忘れた…?」


 久しぶりに聴いた声だったが間違いない。それは母親の声だった。



 進太郎の母親は不審者が入ったなどとは疑わずに無警戒で家に入った。そしてそこで待っていた少年の姿を目にすることとなった。


「え…あなた…」

「ただいま、母さん。今まで連絡すら出来なくてごめん」




 背丈は伸びていた顔付きも逞しくなっていたが、それが4年前に失踪した息子であると母親である彼女が受け入れるのに時間は掛からなかった。


 今日に限って安売りされていた1ダース分の卵が入ったビニールを手放し、突然帰って来た我が子を力強く抱きしめた。

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