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第98話 居場所

「うおおおおおおおおおおお!」


 ケイトは雄叫びをあげながらマッハの勢いで飛行していた。彼が通った後には雲が生まれ、代わりに涙を流すかのように雨を降らした。


「うおおおおじゃねえ!都民に迷惑だろうが!洗濯物干してたんだぞ!」


 当然ながら彼を追って走るアクトはビショ濡れになっていた。




 郊外まで出てようやく叫び疲れたケイトは着陸した。そこは会社があった場所からは遠く離れた田舎と呼べる場所だったが、そこにも見覚えがあった。無意識の内に彼は何かを求めてここまで来たのかもしれない。


 そこはケイトの両親が暮らしている家がある町だった。復讐して充たされるはずだったケイトの心。それを埋め合わせるために選んだのは血縁者との再会だった。


「今はいくつだ…どっちも80近くのはずだが…」


 久しぶりに来た町だが、学校帰りに寄ったコンビニや友達と遊んだ公園の位置は正確に覚えていた。


「公園、なくなっちまったかぁ…」


 駐車場を見てふと呟く。しかし景色が変わっていないなんて事はなかった。これについては建物の中身だけが変わる事の多い都市よりも変化が分かりやすかった。



 さらにケイトを待っていたのはつらい現実だった。


「そりゃ…そうか」


 両親が暮らしていた一軒家は既に取り壊されて、ソーラーパネルを備えた新しい家が建てられていた。表札に書かれているのは知らないだった。

 そこにはケイトの帰りを歓迎してくれる人は誰もいなかったのだ。


「そうか…そりゃそうよな…」


 それ以前に、かつてこの場所に暮らしていた人間はケイト・ラングリッターではなく榎本慶斗の両親である。もしも再会を果たせたところで、両親は顔が似た男が自分達をからかいに来たとしか思わないだろう。



「あの…」

「ん?」


 自宅の前で棒立ちしていた中年に、制服を着た少女が警戒しながら声を掛けた。


「あの、ウチに何か御用ですか?」

「あっすまん…俺は以前、と言ってもだいぶ昔だけどこの町に住んでいたんだ。案の定、住んでた家は解体されて新しい物が建てられたみたいだな」

「そ、そうなんですか。失礼します…」


 怯えながら家に入っていく少女。その横顔は若かった頃の妹が見せた物とよく似ていた。しかし母方の名前を尋ねる前に、家に入ってしまった。


「…まさか、な」

「あの子、お前の姪だろうな」

「アクト…凄い汗だな」

「どうする?両親探しがしたいなら手伝うけど」

「いいや。実の娘に土地を譲ったんだ。そもそも俺の帰りを待ってるはずがない。この世界にはもう俺の居場所はありゃ(存在)しないんだから」

「納得いったところで、ここからどうする?」

「決まってる。ブレイズ達と合流するぞ」


 足場となる魔法陣に乗って、ケイト達はの東京の方角へ離陸した。


「大丈夫か?また会社を潰そうってならないよな?」

「それについても心配ない…どうでもよくなっちまった。思う事があるとすれば、次に生まれ変わるとしたら、優秀な能力持ちでロジハラする側になって、それでいて幸せな一生を過ごしたい。それだけだ」

「ぶっ飛んだ能力貰っといてよく言うぜ」

「厄介な使命(オマケ)付きの人生だぞ。俺にとっちゃ最低な人生だ」


 懐かしさに振り回されたケイトが思い知らされたのは、既にこの世界から榎本慶斗はいなくなっているという事実だけだった。

 しかし悲しみに明け暮れている暇はない。この世界からかつての自身が忘れ去られたように、ケイトもそれまでのここでの事を忘れようとした。


 そして生まれ変わると共に課せられた使命を全うするため、まずは仲間達との合流を目指すのである。

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