第95話 果たされた再会
クロウからコルクまでそう距離はなかった。出港から2日後、地に足を付けたシエル達。そこは見た事もない場所だった。それでもなんとなくだが、ここが3年前に修行をしたコルクであるとシエルは確信できた。
「それで?私の知り合いはどこにいるの?」
「アズレアって都市だ」
アズレアという地名にも覚えがある。都市という程でもない港町だったはずだが、この3年間でそのレベルにまで発展したのだろうと一人で納得するシエルであった。
シエル達はそこからアズレアに直行。1時間も掛からずに辿り着いたのは、シエルが想像していた以上に発展した都市であった。
「すっご…」
「海のそばに都市が…まるで横浜みたいだな」
関心している二人の後ろでモジモジとするアクト。しばらくすると遂に限界が近付き、視界に入っていたコンビニまで走り出した。
「ちょっとアクト!?」
「悪い!ちょっとトイレ!適当に待っててくれ!」
アクトはそのままコンビニのトイレへ駆け込んだ。
シエル達は菓子類を買うと、入口近くのイートインスペースで小腹を満たした。
「うむ…」
「どうしたの?小難しい顔して」
「俺の元いた世界では、アノレカディアのような異世界は創作物でよく取り上げられていた。しかしこんな風にコンビニや都市は登場しなかった。異世界とは剣と魔法が一般的で、街並みも中世ヨーロッパ
風の物ばかりだと…車も走っている今の景色を見ていると、東京に戻って来たような感覚に陥ってしまう」
「はぁ~?」
頷いているシエルだが言っている意味は全く理解できていなかった。
要するに、アノレカディアにも元いた世界と同じ風景がある事がとても不思議だと言いたかったのだ。
シエルはボーっと外を眺めていた。大量に購入したはずの菓子も既になくなっていた。
「ん~…え?」
道路を行き来する車を眺めていると、向かい側の歩道に見覚えのある男を見つけた。
「あいつ…!」
「どうしたシエル」
シエルはその男を目掛けてコンビニを飛び出す。車が行き交う車道を飛び越えると、一連の行動に驚いていた男の顔面にパンチを打ち込んだ。
「痛いなぁ…」
殴り飛ばされた男は頬を撫でて立ち上がった。その男は3年前にもコルクで再会した父親のケイトだった。
「この前はよくも偉そうに説教してくれたわね!自分はどうなのよ!?妻を看取りにも来やしないで!」
「…その言い様、本当にロンナは死んじまったのか」
「えぇ!母さんは死んだわ!2年前から不治の病で身体を弱らせて、今年になってとうとう死んだのよ!…どうして今まで連絡を寄越さなかった!手紙で場所さえ教えてくれれば、最期はあんたと一緒にいれた!母さんは最期まであんたの幸せを願ってた!浮気してても、一緒に死ねる人がいた方がいいって許す程だった!ハッキリ言って異常だ!だけどそれよりも異常なのはあんただ!3年間も連絡を寄越さないで何やってた!?」
「チッ…子供だな。大人のやってる事が──」
「私は26歳!あんたが見てない内に大人なってんだよ!忘れたの!?」
さらにもう一発殴ろうと引いた腕をブレイズが止めた。
「落ち着け…聞いたところ、この男はお前の父親のようだな。お前は何者だ。わざとではあるだろうが、力が駄々漏れだぞ」
「これはこれは…お前、アクトと同じでこの世界の出身じゃないな?だけどメアリス特有の牙髪がないって事は異世界からの転移者か?」
なんとケイトはブレイズがこの世界の人間ではない事を見抜いた。それにアクトナイトのようなメアリスについても知識があるようだ。
「質問に答えろ!一体どうしてこんなところにいるんだ!」
「感情が荒ぶると口調が汚くなるところは俺にそっくりだ。可哀想に」
ケイトはシエルを黙らせようと魔力を集中させる。それに気付いたブレイズは刀を召喚して彼女の前に出た。
「自分の娘に攻撃するつもりか…お前それでも親なのか!?」
「親にはなりたくてなったんじゃないよ…」
殺伐とした空気が漂う。だがちょうど歩道の信号が青になったタイミングで、コンビニから出て来たアクトがこちらへやって来た。
「ちょっとちょっと!街の中でトラブル起こすなよ!ケイトさんも落ち着いて!」
「…そうね、今日はあんたに会いに来た訳じゃないの。さようなら。さあアクト、早くレイアストのところに案内して」
するとアクトはばつが悪そうな顔をした。シエルとケイトの顔を交互に見てから、申し訳なさそうに口を開いた。
「シ、シエル。俺はケイトさんがお前の親父さんだって聞いてここへ案内したんだ…その、親子の再会を喜んで欲しくって…」
「は?…私はもうこんな男が親だとは思わない!それよりもあんたが会わせたかった人ってこいつの事!?レイアストじゃないの!?」
シエルはここで再会する人物がレイアストだと思い込んでいたがそれは違った。
アクトが良かれと思って図った再会は、結果として彼女の心を傷付ける事となる。
「まさか、お前がそこまでレイアストってメアリスと会いたいとは思っていなくて…」
「レ、レイアストは…」
「ごめん、お前が会いたがってる人はいないんだ」
その一言で頭の中が真っ白になった。冷や汗が出たシエルはまず何よりも先に、ブレイズに謝罪した。
「…ごめんブレイズ。私、最低な勘違いしてあなたに期待させちゃった…だけどこの通り!この島には妻も子も捨てるような最低な男がいただけだった!ごめん!…本当に、ごめんなさい…!」
「謝るな。誰だって間違える事はある…生きているかもしれないと思ったやつがいなかっただけだ。プラスでもマイナスでもない。だから泣くな」
らしくもない慰めをすると、ブレイズはケイトに歩み寄った。
「おい、ケイトとか言ったな。娘にここまで言わせるとは、さぞ立派な父親なんだろうな」
「おいおい、お前達が勝手に──」
八つ当たりも兼ねてだろう。今度はブレイズがケイトの顔面に拳を打ち込んだ。しかし相手が可愛い娘でなく出会ったばかりの少年だったため、今度は転んだフリをすることもなかった。
「お前は優れた能力を持っているだけで性根の腐った最低な男だ!二度とシエルの父親を名乗るな!父親に戻れるとも思うなよ!」
その男が娘のボーイフレンドなのかはどうでもいいし、娘が自分をどれだけネガティブに捉えても構わない。ケイトにはツツジを抹殺しなければならない使命がある。これ以上、家族の事を気にかけてはいられないのだ。




