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第93話 新たなマユの始まり

 マユの唱えた呪文ガレイボルダ。3人の魔術師は聞き覚えのない呪文だったがそれもそのはず。それはマユがたった今発現させたばかりの潜在呪文なのだから。


「な、何が起こると言うんさね?」

「何も起こらないさね」

「ハッタリリタッハ」




 既にガレイボルダの効果は発動していた。その光景を見たマユも、こんな能力が存在しているのかと驚きを隠せなかった。


「逆再生してる!?」


 マユを中心とした一定の範囲内で起こった全ての事象が過去を辿り始めていたのだ。魔術師はこれまでの言葉を全て逆さで語る。シエルは再び倒れたものの、失った脚は元通りになっていた。


「フラリア!皆!」


 爆発したブレイジングリフレクトソード、フラリア、クルミも復活を果たす。一方的に攻撃していた魔術師達もそれらの動作を遡っていた。傷が引いて攻撃魔法が発動者の元へ戻っていくのはなんとも奇妙な光景だった。



 事象が遡る中で、マユは自身の動きだけ遡っていない事に気付いた。これはとてつもないアドバンテージである。


「その頭を返せ!」


 すると男から頭を奪った魔術師へ走り出した。

 強制的に行動を遡っている魔術師はフラリア達の方からマユへと身体を向ける事は出来なかった。


「はぁ!」


 魔術師の頭を跳ね、その上でさらに残った身体を爆発させた。初めて発動したガレイボルダであったが、マユにはこれにどういう能力が備わっているのかを少しずつ理解していった。


「戻れ!」


 魔術師の元を離れた頭だけ、巻き戻しが加速する。そして弾けた身体は元通りになり、男は蘇った。


「ガレイボルダ・ウナガス!」


 単語を付け加えて再びガレイボルダを唱えると、時間の巻き戻しが終了して元通りとなった。傷こそ負っているが、シエル達も戦える状態に戻っていた。


「今のは何さね!?」

「巻き戻しさね!時間犯罪さね!」

「ひえぇぇ…あっ!頭戻ったさね!」


「俺は死んだはずじゃ…」

「凄い体験でした…あらゆる物が逆再生してるのに意識だけがそのままで…爆発に飲まれた直後の記憶がないのが不気味です」


 事象こそ巻き戻ったものの、どうやら範囲内でその影響を受けた者はその事を理解しているようだ。

 マユは助け出した男の拘束を解くと戦場から遠ざけた。



「あんた達の相手は私よ!」

「…馬鹿さね。時間が巻き戻せるだけで戦闘力は変わらないさね」

「何回も負けたいというなら話は別さね…ちょっと特別な能力があるからって調子乗(つけあが)ってるんじゃないさね!」

「ゴタゴタうるさいわよ!フラリア達を殺したあんた達は絶対に許さない!」

「マユさん!」

「皆!こいつらは私に任せて!…行くわよ、第一潜在呪文(ファーストスペル)!ラーシュルギャレット・ゴリアテウス!」



 ラーシュルギャレット。それはかつて敵であったマユが発現させた潜在呪文である。当時、マユはその呪文を唱えて周囲に甚大な被害を出した上で巨大な怪物となったのだ。


 しかし今回は違う。その強大な力を鎧として纏っていた。そしてその力を、平気で他者を傷付ける最低な魔術師達に向けているのだ。ここまで奇跡的な現象の連続だが、その姿はなるべくして辿り着いたのだろう。


「恰好が変わっただけさね!」

「変わったのは外見(みてくれ)だけじゃないって…魔力を感じられるあんた達が一番よく分かってるでしょ!」


 次の瞬間、マユは魔術師の背後を取った。そして最初に狙いを定めたのは、クルミに電撃を放った魔術師だった。


「ひえぇぇ!助けてさね!」

「「ゴメンさね!無理!」」

「お前がクルミさんを傷付けた雷!それをとくと味わえ!」


 肩を掴んだ魔術師を直上へ放り投げたマユは人差し指を向けて標的にロックオン。そしてトドメの呪文を唱えた。


「ロケットボルテックス!」


 地表から天空へ上がった金属混じりの雷が魔術師を捕らえる。そして島から遠く離れたところで電気と炎の大爆発を起こした。


「あ、ありえないさね!?こんなパワーアップ!」

「落ち着くさね!私とお前が融合すればあいつの戦闘力をギリギリ上回るさね!やるさね!」

「「カップラランメ!」」


 同じ呪文を同じタイミングで唱えた二人の魔術師は融合し、2本の頭と4本の腕を生やした姿へパワーアップした。


「ふふふ…さっきの言葉を返すさね。変わったのは外見──」


「フラリア!」

「ヂカラセフィラ・グランケン!」


 魔力量が上回った事で勝ち誇っていた魔術師は完全無視である。



 フラリアは隣にいたクルミを叩いて武器に変えてマユに投擲。大剣となったクルミはフォールディングアームをマユに掴んでもらうと、縮んで彼女の手に収まった。


「「ミラクルミューズソード!」」

「そんな!?武器なんて卑怯さね!?」

「クロウの子供達を騙したお前達に言われる筋合いはない!これで終わらせる!」


 マユが剣を構えたその時である。双頭の魔術師は強力な光魔法を放って目眩ましをすると、全速力でクロウから逃げ出したのである。


「絶対に許さないって言ったでしょ!」


 視力は戻らないが敵の位置は把握できている。マユは翼を広げて飛翔すると、あっという間に魔術師の背後へ追いついた。


「ま、待つさね!私達魔術師が全滅したその瞬間、お前達の島を襲うように仕込んだ強力な魔物が召喚──」

「「ミラクルスラッシュ!」」



 マユを振り上げた大剣によって魔術師は真っ二つに両断される。肉体は海に落ちる事なくその位置に固定されていたが、マユが背を向けた瞬間に光となって消滅した。




 そして魔術師が消えた時、斬られる直前に警告していた通り、強そうな魔物が召喚された。

 超巨大な魔物が全部で9体。クロウを八方から囲み、さらには翼竜が島を覆っていた。


「すぅ…うおおおおお!」


 魔物達は魔術師によってクロウを襲うようになっていたはずだった。しかしマユの雄叫びを耳にして、島より前にあの小さなハエを排除すべきだと本能が告げた。


 9体の魔物は島を離れてマユへ向かう。しかし彼女は怯む事なく技を繰り出した。


「ブレードハリケーン!」


 剣を振ると測定不能の風が巻き起こる。そして3体の魔物が粉微塵になった。


「ミサイルブリザード!」


 さらに拳を振り下ろすと超巨大な氷の塊が降り注ぎ、また3体の魔物が押し潰された。


「アトミックファイアー!」


 そして口を大きく開く、天災を思わせるような炎を放射することで残っていた魔物を片付けた。




 それで全て片付いたかと思いきや、魔術師はさらに奥の手を残していたようだ。倒した魔物の死骸が空に集まり、超巨大な球体となった。言うなれば10体目の魔物である。


「な、なんて大きいんだ!もしもあれが島に落ちたら、ここら一帯の海すらなくなってしまう!」

「心配ないわ…私が止める!」


 マユはクルミを背負うと、そのまま球体へ向かって突撃した。


「この力は大切な物を守る力…皆を傷付ける邪悪な存在を裁く力!魔術を超えた閻魔術!平和を願う祈りを喰らえぇぇぇ!」


 魔術を超えた閻魔術によって、クロウにいる仲間達の力が集結する。魔物を消し去るその技の名は…


「マイティユニティ!ジャッジメントォォォォォォォ!」



 マユが拳を振り上げる。その直撃を喰らった球体の魔物はそのまま空へ上がっていき、人知れずに消滅した。




 こうして戦いはマユ達の逆転勝利に終わった。

 魔術師が撃破された事を知るとアメーカ人は降伏した。しかし慈悲深い子供達によって、船に捕らわれている奴隷を解放する事を条件にして帰国する事を許された。


 アメーカの奴隷船にて拘束されていた者は例外なくクロウへ降ろされる。

 そしてアメーカ人だけを乗せた大きく虚しい船は、マユによって沖の方へ押し出された。


「今回の事は首相に報告させてもらう!お前達は原子力ミサイルで全滅だ!」

「この忌み子(クソガキ)共!死んじまえぇぇぇ!」


 そうして反省する様子も見せず、逆恨みで報復を目論む彼らがアメーカへ帰国する事はなかった。

 クロウから遠く離れたところで突然の嵐に巻き込まれた奴隷船は転覆。さらに乗員達は周辺に暮らしていた肉食魚によって骨も残らずに食い尽くされたのだった。




 アメーカの奴隷船から解放した者達は丁重に扱われ、国へ帰る事を望む者達から優先的に国外へ送られた。

 帰る国を失った人間と魔族はこのクロウの住民として暮らす事になった。なんとその提案をしたのは、他でもなくマユである。



 戦いから数日後、マユとフラリアは発展していく街を見て回っていた。


「人間と魔族が増えて彩豊かになりましたね…その分問題も出てきましたけど」

「それでも、きっとなんとかなるわよ」

「マユさん…」


 今のマユは以前のマユとは違う。それでも人間と魔族が共に暮らす事に対して肯定的な彼女の姿を見て、フラリアは涙が出そうになった。



「戦ってる時ね、不思議な事があったの。私は砂浜じゃなくて真っ白な空間にいて、目の前には私とそっくりな少女がいたの。ほんの一瞬の出来事だったけど…今思えば、あの子は以前のマユだったのかもしれないわね…あの子が託した光を受け取って潜在呪文が使えるようになったんだか」

「それじゃあ…前の、魔族を嫌っていたマユさんがあなたに力を託したって事ですか?」

「うん…それと彼女ね。申し訳なさそうにしてた。きっと今までの行いを謝りたかったんだと思う…」

「そうですか…もしかしたらマユさんはその一瞬の間、ビヨンドにいたのかもしれませんね」


 ビヨンド。それはアノレカディアで亡くなった者の魂が集うとされている世界で、進太郎ことブレイズが元いた世界ではあの世に該当する。

 しかし当然ながら、そんな非現実的な世界の存在など信じられていなかった。


「もしも彼女が生き返ったら、きっとこれまでの罪を償うために頑張ると思う…だから私、この力で皆のために頑張る!それと皆の事が大好きな私のために!」



 こうしてマユは新しい自分を受け入れた。手に入れた力は島にいる者達、そして未来で出会う者達、この世界で生きる皆のために使うことを選んだ。


 ハッピーバースデートゥーマユ。これからの人生に幸あれ。

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