第10話 束の間の休息
ノアートルバードの背中から地上を見下ろす。要らないからとレンタルショップの店主に押し付けられた双眼鏡で地上を見渡すと、シャムズジャッカルの群れを見つけた。
ジャッカルが向かう先には、登る者達にスリップダメージを与える鮫肌山脈がそびえ立ち、反対側にはロランの町が広がっている。
さらに先へ進むと、山のように巨大な魔物の骸が見えた。あそこがトールの絶戦場だ。骸については、何万年も前に倒された魔物ということ以外何も分かっていない。一体なぜ腐らずに残っているのかも解明されていないのだ。
「少し右へ曲がりますよ」
手綱を握るカジヤンがバードを上手く操縦している。魔族と魔物は相性がいいらしく、私が操縦したらこんな感じて利口には飛んでくれないそうだ。
「そろそろ降下しましょう。パラシュートの使い方は覚えてますよね?」
「えぇ、このボタンを押して…」
ウッカリボタンを押した私は一足先にノアートルバードから降下を開始した。
当然、パラシュートを開かずに降下したカジヤンよりも地上に着くのは遅かった。
「1時間くらい待ったんですけど!」
「事故りましたわですのよ」
「なんでお嬢様口調なんですか、そんなキャラじゃないでしょ」
空から見えた魔物の骸…ここからでも大きく見える。
ベクトランドと絶戦場の間。私はテントを組み立て、カジヤンは魔物の避けとなる龍花火を周囲に設置した。
この龍花火は敵の接近を感知すると、音と光を発生させて、魔物の目線と同じ高さまで上がっていくという代物だ。
「カジヤン、少し休みなさい。シハシヒルズを出発してからもう随分と動いたでしょ?」
「それじゃあ…3時間ほどお休みしますね。時間が経ったら起こしてください」
カジヤンはテントの中に入る。すると寝袋に入る音が聴こえた。
1日の間に色々あったな…私も疲れた。
勇者セスタは移動型拠点ウィングキャット号を所有していると聞く。仲間になればそれに乗せて貰えて、これからの冒険が少しは楽になるだろう。
しばらくして、私は空を見上げて星を数えていた。テントの中からは微かだがカジヤンの寝息が聴こえる。
「おいシエル」
「クワァーバル、どうかしたの?」
瓶に詰まった大地の精霊が喋った。都市に入ってからほぼ無言で存在を忘れていた。
「ベクトランドの方角から機械が近付いて来ている。お前が言っていたウィングキャット号だろう。焚き火を強くしてここにいることを分かりやすくしろ」
そう言われたので、焚き火に火力を高める燃焼紙を追加。龍花火の回収も行った。
それからしばらく、移動型拠点ウィングキャットは私達のテントのそばまでやって来た。