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秘されし赤林檎  作者: 敬重感泣
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1.8赤のアジサイ6

 窓から差し込む光に照らされて目が覚めた。快晴。青い空に白い雲が浮かんでいる。すっきりとした空気なのに獣のにおいが充満していた。原因はわかりきっている。俺だ。昨夜獣と戯れてそのまま水も浴びず寝たことで熟成された人間と獣のブレンド臭だ。

 うへえと自分の振りまく臭気に辟易しながら作業机においてある布と自分で作った目のあらい櫛の入った桶と、アマルフィの毛を煮て干したものを一つまみ分手に取って川へと向かう。途中アマルフィの小屋にも寄っていく。もう起きているようで扉の前に立つと扉をガシガシとひっかくので、扉がガタガタと揺れて留め具が外せない。

「シっ!お座り!」

 アマルフィはサージャとは違い、このように注意してやればすぐおとなしくなる。賢い子だ。

 扉を開けてあとも大人しく伏せしている。かしこ忠実な子だ。

 だが俺の姿を見た瞬間に俺に突撃してくる。かしこ忠実かわいい子だ。

 小屋の裏に生えている竹の枝を数本とっていく。この世界にも竹があって助かった。前世でも大いに助けられた植物だ。

 アマルフィは賢い子なので放置していても逃げ出さない。ただ、俺になつきすぎている節があり寝床に入り込もうとするから夜だけは専用の小屋に隔離している。

 村から伸びた一本道をアマルフィとともに下っていく。朝ぐらい自由に遊んでてくれていいのだが。せめてもということで緒は付けていない。なんだか悲しそうな眼をしている気がするが、まあ気のせいだろう。

 水浴びに連れて行くのは初めてなのでアマルフィはいつにも増して甘えん坊だ。頭をグリグリと擦り付けてくる。非常に歩きにくい。道といってもほぼ獣道なのだ。頭をぶつけられるたびに葉っぱやら虫やらが体にぶつかってくる。悪い気はしない。悪い気はしないが甘える時と場所は考えてほしい。

「こらこら。後で構ってやるから」

 頭をわしゃわしゃ撫でてそのままグイっと後ろに押しやる。アマルフィはンメぇンメぇと少し不満げに鳴いた。胸が痛いが俺は虫が苦手なんだ。

 アマルフィとそんな攻防をしているうちに俺がいつも水浴びしている川についた。

 石がたまって少し開けている川の近くは空も広く開放感があり、涼風が体を吹き付けて村よりも大分涼しく感じられる。緩やかにさらさらと流れる川の底には手のひら大の丸っこい石が詰まっていて、ところどころにある角ばって大きな石の間を魚が通り抜けているのが見える。俺は釣りなどしたことがないがきっとここはいっぱい釣れるんだろう、朝食に時々出てくる魚はここの魚だろうな、なんていろいろと考えているとアマルフィが俺の横から川に向かって飛び出していった。あんなに甘えてきていたのに動物は欲望に忠実だ。

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