赤きリナリア4
次世代と言われた領主の代理二人が順々に素性を明かしていく。領主の血縁なだけあって儀式的に、厳かに進む。上衣をはためかして堂々と名告を上げた。
何かが気に食わないようで、舌打ちをしている領主もいた。
「さて、まあ他の者は紹介するまでもないだろう。」
な、と領主が大人に混じる二人の子供たちに笑いかけた。少女は無関心だと言わんばかりの様子だったが、少年は唾を飲み込む音で返事をした。
「一人追加であいさつした方がいい奴がいるんじゃないか。」
男はニヤニヤしながらマスク姿の男に目を向けた。領主はその言葉を無視して続ける。
「本来であれば、ここで令を頂戴して進めていくわけだが。。。」
見回して言葉を止めた。
「まあ、外れのようだ。いつも通り状況報告して欠員を補充して終わりだろう。」
苛立った口調で若い男が続けた。皆不本意そうだが、異論はないようだ。
「では。。。」
話を続けようとした領主を立ち上がって遮った。またあの男だ。
「全くもって理解ができない。報告。報告だと。今しがた報告と言ったな。報告とは何に対する報告なんだ。」
皆一斉に憮然とした顔を向ける。
「我々が何かを報告するとしたら誰にだ。」
ん。ん。と一人一人顔を向けて表情を覗いていく。最後に青年に顔を向けて止まった。
「え。いやあの。。。」
返答すべきなのだろうか。周りの人を見まわしても領主たちは険しい表情のまま止まっている。
「あの。。。神様です。。。」
こちらを見たまま制止している男におずおずと答えた。男は満足したように目線を外すとつづけた。
「それなのに何だ。その腑抜けた政治の真似事は。情けない。」
緊迫した空気の中でただ一人空気の読めていない少年が口をはさむ。
「それは野人や死人が。。。」
「野人だ死人だぁ。そんなものに気怖じするのならば、最初から支配を受け入れていれば良かっただけだ。」
語気を荒げて圧倒する。さらに小さく舌打ちをした。
「そもそも。。。」
話を続けようとしたタイミングで再び大きな音とともに扉が開かれた。制止する時間も与えずに一直線に領主の元へ駆け寄る。視線を集める中耳元で何かを報告しているようだ。領主は小さくうなずいて返事をした。するとその者はまた慌ただしく出て行ってしまった。皆が食い入るように様子を見ている。
ツテラなど数名は後ろに立つ騎士に目配せをした。騎士たちは颯爽と部屋を出ていった。
男は興が削がれたとばかりに息を吐くと、額を軽く掻いてじゃあと続けた。
「うちはそいつを貰おう。」
何食わぬ顔で指をこちらに向けた。
「うちの人材難は皆が知るところだろう。」
異論は無いだろうと満足そうに笑みをこぼすと再びどかっと座った。
「何らかの意図を感じるな。」
皆が言葉を発さずにいる中、静観していた一人が口を開いた。
「外れだ外れだと口をそろえて言うからそのつもりでいたが、どうやらそうとも言い切れないようだな。」
そういって意見を求めるようにツテラの方を見つめる。対してツテラはいたずらが露見したかのようにわざとらしく唇の端を下げて手をひらひら振った。
「大体、さっきから偉そうに演説をぶっているが、お前は穴埋めのための局外者にすぎんだろう。選ぶとしても最後だ。」
12の家門の中にも格があるということなのだろうか。なんだか聞いてはいけない話を耳にしてしまったようで、居心地が悪い。
「まあまあ。ここでいがみ合ったところで利はないですし。。。と言っても仲良くする気もないようだ。どうでしょう。彼を採りたい領が他にあるか聞いてみましょうか。」
どうですか、と顔を回す。すると多くは不承不承といった様子で一人また一人と手を上げた。最終的には全員が手を上げた。領主は大人気ですねと口元にだけ笑みを貼り付けて見つめてきた。その目は恩を忘れるなとでも言いたげだった。
どう返答すべきか迷っていると、舌を鳴らしてまたあの男が話し始めた。
「エアリオンは12人上限までいるじゃないか。他の奴らもそんなもんだろう。うちは。。。」
手を大きく広げて上に下に振り回しながらまた一方的に主張を広げようとしたとき、ずっと卓が蹴り上げられた。
「ごちゃごちゃ御託を並べているが、その都度言われなければ理解できないのか。」
ずっと不快感を隠さずいた男が卓を蹴り上げた足でそのまま立ち上がった。ゆっくりと真っすぐ見つめる白髪の男へと踏み出した。
「本当に不思議なものだ。知る限り初めて顔を出したと思ったら顔すらも隠したまま。。。更にこの会合を遮るほどの。。。尋常でない何かが起きたと思ったら素性も判然としない、急に候補に入った者を欲しがる。」
首をひねりながら体をこちらに回した。
「偶然だなんだと片付けるには少々出来すぎだろう。よくよく考えたらお前も本物か疑念が残るな。」
再び白髪に向き直すと真っすぐに見つめる。即応できるよう周りの人間もすぐ動けるよう体勢をとっている。しかし男からはフフフ小さな笑いが返ってきた。
「それは質問か。それともただの感想か。」
男が小さく舌打ちをして腕を上げた。瞬間多くの者が立ち上がる。
「だが、確かに。上限まで騎士を任命している奴らより、欠けている家門が優先されるのは道理にあっていないか。」
数少ない座ったままの編み髪の女が片目をつぶってくる。男は振り返り自分の連れている騎士に顎を軽く上げて指示をした。騎士は何も言わずに自ら絞めるように首元に手を持っていく。
「まあまあ落ち着こう。どうだろうか。この子の意思を尊重して順々に口説いていくというのが丸く収まるんじゃないかね。」
領主のその言葉に皆座りなおして耳を貸すようだ。
「出自は確かなのだろう。」
先ほどの騒ぎでも座ったまま静視していた男が問いかけると、完璧な笑顔でそうだといいうと、一人ずつ勧誘が始まった。




