4.12.3.1 黄色 のゼラニウム1
何度経験してもこの喧騒に慣れることはないだろう。すぐ前を音楽隊が歩いているため、特段うるさく感じた。しかしこの一角だけでも、町だけでもない。国中が。。。いや世界中が祝福する祭りで人々が一つの祭りに集まってこの日を祝っている。隣を歩く班員たちの顔も緩みきって、せわしなく視線を左右に振っている。特に十数年ぶり の国での催しとなるからか年長者も大はしゃぎで、その様には苦笑いが隠せない。
「あんな小型動物が生きたまま大量に売られているぞ!」
すぐ隣を歩く協会の支部統括が強く肩を叩きながら手を乗せて、音楽に流されないように耳元で声を張ってくる。なまじ力があるだけに非常に痛い。弾くように離された肩をさすっていると今度は後ろを歩く協会の者が後ろから両肩をつかんで揺らしてくる。
「あちらには旨そうな蒸し料理が売ってあります!どこの領国の者たちでしょう。私の故郷の料理もあるでしょうか!」
思いっきり前後に揺らされながら、近くの同僚に助けを求めて目線を送るも皆同じようにはしゃぐばかりだ。ゆっくりと丁寧に乗せられた手を降ろして少し歩調を早める。どうやらまともに仕事をしているのは自分だけのようだ。
しかし本当に人通りが多い。この中で治安の維持に当たれというのがそもそもの無茶である。異常じゃないところを探すほうが難しいものだ。一層のこと楽しんでもいいのかもしれないと思った矢先、人の密度が異常に少ない空間が目に留まった。やけに人がいないようで、それでいて少し距離を置いて人がまばらに集まっているようだ。
「なんかちょっと違うんだよね。もっと元気のいいやつはいないかなあ。」
やけに大きな声だ。普段なら避けたくなるようなタイプだが、中性的な声で艶めかしいというか、やけに気をひかれる。視線がその者に吸い込まれる。じっと見すぎただろうか、手に店に並ぶ小さな動物をつかんだままちらっと後ろを振り向いた。本当に一瞬であったが迷わず僕の目を見つめてきた。少なくともそう感じられた。慌てて目線を逸らしてまた騒がしいああでもないこうでもないという声が聞こえ出してから目線を戻した。ここにきてようやくその者の正体に気が付いた。あの外套に顔の布である。通りで皆遠巻きに観察するわけだ。
「今年は来たんだな。」
いつの間にか追いついていた支部統括が再び手を肩に置いた。だが先ほどまでのだらしない顔はしていないことは直接見ずともわかった。
「あれが異常事態なのか。それともそれを前提としての異常なのか。」
あくまで判断はお前の仕事だろうと協会の皆が見つめてくる。
「あれは想定内です。あくまで可能性としてでしたが、共有されています。。。わたしたちは予定通りにこの向かっている先の統制区画 を確認します。そもそもこの辺はわざわざ我々が確認せずともですからね。」
支部統括は周りの人だかりを軽く見回すと、ふんと一応は納得した返事を寄こしたが、やはり気にはなるようだ。皆それとなくを装っているものの、露骨に視線が集中してしまっている。そういう僕も非常に引っかかるものがあった。おそらく領主というのはそれほどまでに何かがあるということなのだろう。だが逆にここまで視線が集まる中で、さらにその元凶の前で変なことはなかなか起きにくいだろう。いい加減に無遠慮に見つめるのはやめようと目線を戻すと今度は微かに焦げ臭い においが鼻をつついた。




