4.12.2.1山吹色のフリージア1
「そろそろかな。」
隣で飄々としている子どもが窓から部屋に入ってきた。
「表から入ってこい。品が無い。」
長身の男はそう言って窓から少し離れて入れてやった。物珍しそうに部屋を物色し部屋中のものを触っている。男は小さくため息をつくと、小物を手に取り眺めている子どもの隣に置いてある額を手前に引いた。壁の向こうでパンパンパンパンと音が鳴り、模様に合わせゆっくりと壁が開いた。
子どもはおぉ、と声を上げると躊躇いなく入っていく。置いてある器具を一つ一つ使用法を確かめるように触っていく。
「これはあいつが大層喜びそうな部屋だな。」
嫌味っぽく口の端を下げて笑う子どもは、言葉とは裏腹に目に憤りを隠していなかった。男はそんな事情を汲まない言葉に鼻息を小さく漏らした。
「必要なのだ。仕方がないだろうが。。。そもそもお前がしようとしていることの方があの子は傷つきそうだがな。あの子のためにもならないのではないか。」
窘めるように言うと、唐突に胸のあたりを掴まれた。
「為すべきこともせず、のうのうと生き続ける貴様らが口を挟むなよ。」
思いの外凄みのある子どもに男は少し驚いた。薄く笑うとゆっくりと胸元を握る手を掴みゆっくりと降ろした。挑発するように目を細めた。
「あの娘が戻った時、我々は橋の下にいた。」
子どもは少し顔をしかめた。
「存外我々も無関心とはいかないものだ。」
男は顔の笑みを深くし歯を見せて笑った。
「寄ってくるぞ。」
「今回で終わりだ。否応なく出てくることになるさ。」
子どもは怯むことなく満面の笑みを見せている。男はそんな様子に少し感心してしまった。
「お前なら俺らを弑逆できるかもしれないな。」
「それは少々荷が重いな。」
向き合いお互いに笑いながら牽制していると、両人ほぼ同時に外から走ってくる気配を感じた。
「あいつらは今来たのか。。。お前は付いていなくて良かったのか。」
男は非難めいた目を子どもに向けた。少年は小さく舌打ちをすると、指を鳴らした。すると子どもは姿を一瞬で消し、男の後ろから声を掛けた。
「6人連れてきた。あいつらが交代で見守っている。」
子どもは吐き捨てるように言うと、歩き去って行ってしまった。
「呼ばれてもいないのに予備まで連れてきていたのか。。。お陰様でこの隠れ家も処分することになりそうだ。」
男はさっき子どものいた場所から顔を動かさず、憎たらしそうに言い放った。