赤きネリネ11
降り立ったのは山の頂上にあたる立派な城館であった。自分達に与えられた屋敷も分不相応で相当立派なものであると思っていだが、そんなものではなかった。
「これで公館ですか。ここがエアリオン家だと言われても何も疑問はありませんよ。」
すると鞍を外しながら苦笑いして答えた。
「私も質素なものにしようと思っていたのですがね。。。結構な人数が駐在するというもので。。。」
そう言って視線を城下に移した。上からこぼしたように、扇状に町が広がっている。同じ素材で作られているのか、城と街並みが一体化している。少し暗くなっている中に、それぞれの建物から光が漏れ幻想的な風景を生み出していた。
「慕われているんですね。」
自分の生まれ育った土地を離れ、年にたかだか数回の訪問のために移住するのは信仰心だけの結果なはずがない。
「意外と、皆出ていく口実が欲しかっただけかもしれません。」
そう言っておかしそうに笑うツテラは、少し寂しそうだった。
「普段私は来られないので、定期的に回ってくれると助かります。当然、ディスティンバークルやウストプスも。」
「考えてみます。。。」
「是非に。」
今度はにっこりと優しい顔で笑った。
「さあ、明日はきっともっと疲れますよ。食事も部屋に持っていかせますのでお休みください。」
パッパと軽く鳥の体を叩くと、キーっと短く鳴いて飛び去って行った。
「あの子はどこへ。。。」
エアリオン家で飼っているのではないのか。あんなに大きな鳥が飛んでいれば皆気づきそうなものだ。さっき聞いた話では、内密にしなければならないはずだ。
「さて、どうなんでしょうね。昔はうちにもいたのですけどね。寄越された子ですのでいつもどこにいるのか今はわかりません。」
「それってどなたから」
さらに尋ねるも、聞こえていないようだ。目の上に手をかざして空を見上げている。姿が完全に見えなくなると、青年の方へ向き直った。
「さあさあ」
そう言って手を叩くと、いつの間に近くに来ていた侍従たちに囲まれて、あっという間に部屋まで案内されてしまった。そのまま服を脱がされそうになって慌ててそれを断る。残念そうな顔に少し気が咎めながらも、彼らを部屋から追い出して寝支度を自分で進める。
あてがわれた部屋はあの小屋に負けず劣らず立派なものだった。三枚の布がぶら下がっていた小屋とは違い、四枚天井から下がっていた。どういう意味があるのだろうか。家門に伝わる何かがあるのかもしれない。また、装飾などはほとんどなく質素な部屋で、セステリスにとっては落ち着く空間となっていた。
着替えを済ませ、部屋を物色していると扉が叩かれた。食事を持ってきたという。部屋の前に置いて置いてもらった。
足音が充分に離れたことを確認してからそろりそろりと顔を出す。近くに誰もいないことを確認してから台から盆ごと引き上げ部屋に急いで戻った。
陶器製の皿に山盛りになった食事に少し手を付けて、また静かに台の上に戻した。
部屋の隅に置かれた桶で軽く口を漱いでベッドに横になった。しばらくぼうっとしてここが家ではないことを思い出した。閉じかけている目を無理やり開いて、少し厚手のものを取り出し羽織る。その勢いのまま倒れこむと、そのまますんなりと眠ってしまった。