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秘されし赤林檎  作者: 敬重感泣
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赤きネリネ10

「ちょ、ちょちょっと。。。これ何が。。。師匠は。。。」

 無理やり座らされた青年は説明を求めるが、抱くように座るツテラは微笑むだけだった。

「先ほど話をするって言っていたじゃないですか!」

「では戻りますか?私は十中八九殺されセステリス様もただでは済まないと思いますが。」

 黙ってしまった青年に、男はハハハと笑った。

「冗談ですよ。貴方様は騎士になりたいと思っていらっしゃる。それならば無理やりにでも行くしかないのですよ。。。」

 それでもと食い下がる青年の言葉は黙殺し、さらに質問をぶつける。

「ところで騎士と兵士の違いは何でしょうか。貴方はどうしてそうなりたいと思っていらっしゃるのか。」

 笑みは絶やさず、しかし真剣な目で顔を見つめてくる。けれど、取るに足らない質問であった。

「騎士の位には重い責任が生じます。当然12家門の皆様方とは比較になりませんが、人を守ることに。。。」

「単なる位の問題でないことはあなたが一番よくわかっているはずです。位だけであれば、12家門同様に同じ家から出続けることでしょう。自分で思案し手段を選び取る。これが騎士であると私は思います。」

 自分で選択する。それは非常に甘い言葉であった。

「叙任式では私たち3家門が指名します。何処でも好きな所を選択すれば良い。私たちは今回のため指名せずにいたのです。すんなりと通るでしょう。」

 そう一方的に告げられ、それからはしばらく話すことも無かった。

 二人の跨る巨鳥は畑を越え、豆粒程度となった家々を越え、トカゲとは桁違いの速度で真っすぐと進んでいく。整備されていない道の塊から大きな舗装された道へ、そしてまた荒い土地へ。景色が目まぐるしく変わっていく。

「。。。すごい。」

 青年は思わず感嘆の声を上げてしまう。

「少し前までは多くの騎士は鳥を使っていたのですけどね。」

 確かにそうであった。移動手段としてだけでなく、様々な方面で鳥を使役していたはずだった。だが、ここ数年の間に全くと言っていいほど見なくなった。

「ここ最近は見ないですね。」

「。。。えぇ。あまりに扱いが酷いものでして。ある家門の方が無理やりやめさせたもので。我々は苦労しましたよ。」

 渋い顔をしている。ある家門と濁してはいるものの、12家門に何かを強制することができる所といえば限られている。

「鳥だけでなく犬も、全ての野人の利用を止められたので困ったものですよ。。。あ、今この子に乗っているのも秘密ですよ。」

 指を唇に付けて他言無用であるという。

「はい。でも禁止されているならなぜ。。。」

「この子ですか?この子はその禁止した方が用意してくださったのですよ。」

 禁止した家門が寄越したということは。

「ではイニデックス家とも親しくされていらっしゃるのですね。ではイニデックス家にも指名いただけたらそちらでも。。。」

 正直青年が一番属したかった家門であった。12家門の中で実質的に一番力を持っている。父親と叔父のいた場所でもあった。

 イニデックスと友好関係にあるのならば、商会をあの規模で自由に動かしていることも納得がいく。しかし、ツテラは眉をひそめてしまった。

「うん?んんん。。。ああなるほど。。。。いえいえ違います。彼らではありません。何より彼らはいけ好かないですし。彼らは毎年指名していますから今年も目星をつけているのではないでしょうか。」

 それに、と言って改めて姿勢を正した。

「私たちが守護者となると言ったことは本心です。あいにく、私を遣わした方は今回も叙任式には出られそうにないので、私たちにお任せくださいませ。」

 どうにも怪しく感じられたが、こうも身分の高い人間に下手に出られると否定することはできなかった。

 一人で悶々としていると、急に速度を落とされた。バランスを崩すとすかさず腕で支えられる。ただでさえ近い距離が更に近づく。整った顔立ちに思わず赤面してしまう。下を見ると整然と並んだ街並みとなっていた。特に先の方には、山をくりぬいた彫刻のような景観が広がっていた。

「おっとっと。そろそろ私の公館が見えてきましたね。今日はそちらでお休みになられるとよろしいかと。」

 信心深い青年にとって見ず知らずの、それも尊い方の住まいに泊まるなど言語道断であった。しかし、宿でも取り、最悪その辺で野宿するからと断っても、二度手間だからと断られてしまった。

「どの道タベノベ様がいない今、誰かしら貴方様をお連れする人間が必要です。それに部屋ならば不要なまであります。心配ご無用ですよ。」

「はあ。。。そう。。。ですか。」

 ここまで言われてしまったら、断ることなどできなかった。言葉が出ないでいると、そうだ、と思い出したかのように話を変えられた。

「神話について、どこまでご存じでしょうか。」

「どこまでとは。。。」

「いえ、先ほど家門については皆が知っている程度だと仰っていました。」

「ええ。。。。そうですね。」

「我々の歴史はそのまま神話に直結します。なのでどこまでご存じなのかと思いまして。」

 試すかのような言い回し、そして何より内容が内容であるため返答に窮してしまった。すぐに、返事のない理由を察したツテラは付け加えた。

「単なる好奇心です。私と違った認識を持っていたからと責めたりしませんよ。」

 しかし少し焦ったような口ぶりは、青年に改めてこの質問の重大さを認識させただけだった。ツテラもまいったという風に頭を掻きはじめ黙ってしまった。しばしの静黙のあと、急に思いついたように息を漏らした。

「ではこのような話を知っていますでしょうか。かつてはこの世界のすべてがギーからのギーであり、この世界を作った人間は実はギーいたと。そして我々は無理やり作り上げたその残りかすに過ぎないと。そして貴方はそのギーのギーである。どうですか。私の存じ上げている内容ですが、ご存じでしたか?」

 興味津々といった感じで、顔を近づけてきている。穏やかな声音で迫るこの男に、年頃の娘であれば大いに心臓が高鳴ることだろう。端正な顔つきと優しい話し声はセステリスまでも赤面させるに十分であるが、それ以上に内容に訝しさと、そして肌が粟立つような寒気がした。

「。。。申し訳ありません。少々耳鳴りのようなものが。。。あまりよく聞こえなかったのですが。。。」

 申し訳なさそうにする青年に、そうですか、と冷たく言った男の顔はまるでにやけるのを我慢するかのように細かく動いていた。もう一度聞こうと、弱弱しく話しかける青年の声は一切男の耳には入っていなかった。

「やはりそうだった。」

 そう小さくつぶやいた言葉は、青年の耳に届くことは無く、青年はよく聞こえない男の口元を見て、すっきりとしない感情にさらにわだかまりを募らせたのだった。

「あの。。。先ほどの話なのですが。。。」

「さあもうすぐ着きますよ。」

 意を決して吐いた青年の言葉は、到着の合図と急降下に遮られてしまった。

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