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秘されし赤林檎  作者: 敬重感泣
33/80

2.15赤のアスター15

 胃の奥からこみ上げる異物感で目が覚めた。鼻にまとわりつくような異臭にツンと来る臭いが混じった空気が辺り一面に蔓延している。黄色い色までついていそうだ。ぼーっと見ていたが、目の前に広がる黄色い溜まりに気が付いて反射的に体を横にひく。

「お前は俺の敵か?」

 人の気配なんてなかった空間で、突然声がかけられた。体が少し跳ね硬直してしまった。声のした頭の上を、かろうじて重い首をずらして見上げると、ヤンキー座りした子供が険しい顔で俺を睨んでいる。傍から見たら結構重めのいじめ現場だ。

 少年は混乱している俺の首を、小さな右手でがっしりと掴んで再び言った。

「お前は俺の敵か?」

 頬を強めに地面に押し付けられたまま、俺は何と答えるべきかその体勢のまま考えあぐねていると、ガシッと音がして扉が開いた。空いた隙間からちょこちょこと擬音の付きそうな足取りで、小さな女の子が入ってきた。俺も隙間から漏れてくる光でようやく回りが見えてきた。強い刺激に目を細めながらもなんとか辺りを見回す。牢のような、何もない小さな部屋だ。懲罰部屋といった感じで、壁には窓もなく隅に小さな桶だけが置かれている。

「混乱しているだけ。。。かも。お父さんも少し休んだ方がいいかも。」

 手に持っている小さな器を俺の横に置くと、少女はさっさとお父さんと呼ばれた少年を部屋から連れて出て行ってしまった。

 当然扉は閉めてしまって、鍵をかける音が聴こえてきた。のっそりと体を起こして掴まれていた首を摩る。結構な力で掴まれていたが、全然痛みなんかはなかった。はあと小さくため息をついてあの少女が持ってきてくれた水を一気飲みする。そういえばアマルフィは大丈夫だろうか。まああいつは俺よりよっぽどタフだ。問題ないだろう。

 途中晒された光で、闇に鈍くなった目に俺は少し安堵さえ感じてしまった。とにかく連れてこられた理由だけ知りたいが。。。というか、敵か?ってこっちのセリフだわ。わけわのからない術みたいなのをいきなりかけて拉致って吐かせて敵ですかって何事だ!?ただただ意味が分からないし怖い。

 そもそもいろいろ聞きたいのはこちらの方だわ。でもよくわかんない攻撃してくるし変に刺激したら即終了って可能性は十二分にある。むしろそっちの方が可能性として高いだろう。笑って俺の知っていることを全力でしゃべってごまかすべきか。

 いろいろ悩んでいると、さっきの女の子が再び入ってきた。

「お父さんは寝たかも。安心してほしいかも。」

 さっきの高圧的な方がいなくなったのはありがたいけども全く安心はできない。

「あっちょっ」

 急に俺の喉をなでてきた。

「えっと。。。君は何を?」

「ハルかも」

「春?」

「そうかも。私はハルかも。」

 どうやら呼び名が気に食わなかったらしい。名前を呼ばれないことがよほど悲しかったようで、目を伏せ大きな耳を垂らしてしまっている。ただ俺の喉に充てている手を離すことはしない。

「ハルさん。。。は何をしているの?」

「全然出てないかも。。。まだ違うかも。。。」

 触っている位置からして喉仏のことだろうか。まあまだピチピチの小学生だからな。ここに小学校はないけど。

「まだ若いからね。」

「そうかも。。。まだまだ若い。。。。」

 すると、とぼとぼと部屋を出て行ってしまった。

「えっ。ちょっ」

 俺の制止する声は届かない。バタンと勢いよく扉を閉めるとパタパタと足音を立てて出て行ってしまった。

 一体何だったんだ。

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