2.13赤のアスター13
俺の発した声は深い森に吸い込まれていった。森だ。よく知っているカシワだかミズナラだかが林を形成している。ところどころ空いているところにはツツジだかサツキが密生している。あのどんぐりアク抜きをしないと渋いんだよなあ。ツツジも甘いけど腹壊したりするんだよな。。。懐かしい。懐かしいけど心が痛いです。
日の光はさんさんと降り注いでいるのに、葉で遮られて視界は薄暗い。けれども空気は澄んでいて、開放感があって、暗さは全くというほど気にならない。日本って感じの森で少し安心感を覚えつつも、嫌な思い出で見慣れた光景に吐き気がする。
寝起きな上に唐突な景色の変化で眩暈がしてきた。一体何なんだと首を回しながら辺りを見渡していると、葉影で模様のついた白い巨体が目に入ってきた。アマルフィも来ていたのか。アマルフィは不安そうにサージャの後ろに隠れて縮こまっている。まあもともとの体がでかいから多少丸まったところで幼女に隠れるなんてできないんですけど。でも行動自体がかわいいから良し。全く愛い奴め。
「えっと。。。ここって?」
「森よ。」
それは見ればわかる。聞きたいのはそういうことじゃない。
「えっと、どこの森。。。なので?」
「さあ?どこの森かって何か関係あるのかしら?」
だめだ、話が通じない。答える気がない奴に何を聞いても仕方がない。前世からの俺の知恵袋だ。俺は目を潤ませて、最大限かわいそうな顔を作ってサージャの方を向く。よく見るとなんだか暗い顔をしている。正直あまり期待はしていなかったのだが、結構効果があったのかもしれない。俺は眉と唇の角度をさらに引き上げて畳みかける。
「さぁじゃあ。。。お兄ちゃんどこに連れていかれるの?」
自分でも情けないとわかっていても、現状俺にできることはこの程度しかない。
「。。。」
サージャは返事をしてくれない。というかすごい顔をしている。すごく悲しいものを見るような、こちらの心が嫌な方向にえぐられる顔だ。
とうとう俯いてしまった幼女に代わってウルダーが口を開いた。
「しばらくここで生活してもらうわ。タイミングが大事だってあの子も言っていたでしょう?」
またタイミング。。。まあこの際それはどうでもいい。ここに連れてきた理由とかの最低限の説明だけでも欲しい。
「ここでって。。。ここ山だけど」
見た限りただの山。サバイバル生活が魔法の訓練になるとは思えないんだけど。肉体的には強くなるかもしれないけれど。まあでも、サージャは魔法を使えるし。少し気が落ちているように見えるが、所詮幼女のことだし家を離れるのに少しナーバスになっているだけだろう。とりあえずサバイバル生活はご機嫌取りからかな。
「山だからじゃないのよ。ここで生活することに意味があるのよ。」
あれ、気が集まってるパワースポット的な山なのか。なんだ。それなら合点がいく。
「まああなたなら死ぬことはないでしょうし、頑張って頂戴。」
そう言って右手を振り上げようとする。
「って、ちょいちょいちょい」
身を乗り出して慌てて手を取り引き留める俺に、ため息をついて何?などと言いやがって小さくため息までつきやがった。ため息をつきたいのは俺の方だよハイパーババア。
「いやいや、何かゴールというか、最終目的というか。何をしたら帰れるとか無いの?ああそれと、道具的ないろいろさ、サージャは女の子だしいろいろ服とかやっぱ気を使う必要がある気がするというかさ。。。」
というか本来小学校に入るか入らないか程度のガキ二人を森に放り出すって正気じゃないよな。しかも女の子もってスパルタとかいう次元じゃねえよ。俺がロリコンの気があったら相当まずいぞ。中の人間は精神年齢低めとはいっても合算したら結構なおっさんなんだぞ。そこんとこババアは行く前にちゃんと伝えてくれてんのかね。
「。。。とりあえずここで待ってればいいわ。時期が来たらまた来るから。。。それとこの子は連れて帰るわ。いい経験にはなるでしょうけどね。フフフ。流石にあなたと二人っきりはいろいろ不味いでしょう?」
御見それしました。流石あの腹黒ダヌキ、抜かりはないか。考えを覗き見られたようでなんだか決まりは悪いが、まあ俺一人だってことだし少し気は楽になったっちゃ、なったか。いや、なったか?こいつ正気か?一人山の中に期間も告げずに放置プレイって、世界のニュースが流れてる前世でも聞いたことねーぞ。腹が立ってきた。
「あのー。。。道具とかって。。。」
あれこれ考えるのをやめて、目を開きハイパークソババアの方を見ると、そこには丸くなったアマルフィだけが取り残されていた。