2.10赤のアスター10
適当に村を歩いていると、村のテイストを変えるやつらが視界に入ってくる。屈強な男たちが村の入り口の方から歩いてくる。てっきりババアの護衛にでもついていくのだと思っていたが、皆ここに残っている。毎日毎日殴ってくるが、それはババアの指示でやってるだけでこいつらに悪気はない。むしろ、俺のためにそうしているって様子が見て取れるくらい表裏のない奴らだ。そしてこいつらはなんというか、全体的に知能が低い。精神年齢が低いというか、頭の中が子供のまま大人になった人みたいになっている。まあなんというか純粋なやつらだ。しかもこんなに鍛え上げた、前世のボディビルダーでもそうそういないほどにムッキムキなのに、めちゃめちゃ怖がりというか小心者というか変に周りに気を使っている。このアンバランスさがなんとも言えない痛々しさのようなものを醸し出している。
「フィリス!」
連中の一人に声をかける。毎日ボコボコにしてくるが、悪い奴ではない。悪い奴ではないが、毎日毎日寄ってたかってボコボコにしてくる。しかもこいつらには名前があるのだ。見目麗しい美女エルフ達は名前がないのに。こいつらも顔だけはいいことにはいいのだが。。。まあその辺の文化とかしきたりとかをつついて地雷を踏みぬいたら笑えないから聞かないが。。。
「あ、ああ!ムツキ!」「よ、よう!」「ムツキか。。。」
こいつらはそろいもそろって歯切れのよくない挨拶を返してくる。なんでよそ者の俺がこんな堂々として、地元のこいつらがこんなびくびくしているんだろう。笑えてくる。
「何してるの?」
「いや、今さっき門守を交代したところで。。。特にどうとかそういう感じでは。。。」
本当におどおどしている。初めて会ったときはこの筋肉と肩に担いでいるメイスに威圧感さえ感じて、こっちがビビり散らしていたくらいなのに。
「じゃあ、ちょっと暇つぶしにつきあってよ」
「い、いいけど。。。いいよね?」
意思確認をしあって俺に付き合ってくれることになった。何事にも周りにいちいち確認するというか、会話のテンポが悪くてこいつらと話すと気が抜けてしまう。
途中エルフのお姉さんを拾っていつもの訓練場所に来てしまった。こいつらとすることといえばもはや肉弾戦しかない。肉弾戦といってもほぼ一方的に殴られるだけのようなものだが。こうも毎日毎日やりあっていると癖も見えてくる。こいつらは基本腹と頭ばかり狙ってくる。ババアが言っていた魔法を使うために使う部位だ。でも俺は思うんだ。別に魔法をつかさどるところを殴ったところで魔法が使えるようにはならないんじゃないかな。
フィリスとリホミ、アスニに囲まれるような形で配置につく。
お互いに位置についたところを確認する。始まりの合図などは特に決めていないが、いつも先に仕掛けるのは俺だ。左足を少し前に出して、肩を下げないよう足元に転がっている手のひら大の石を拾い上げる。姿勢を崩さないようにゆっくりと体を上げる。大男たちに動きはない。軽く掌上で弾いて石の感覚を確認する。野球の投手のようにフォームを取って投げつける。俺はその流れのままに前に走ってフィリスの懐に入ろうとする。決して卑怯などではない。俺だけ武器も持たずしかも三対一だ。思いっきり投げた石はまっすぐフィリスの頭に吸い込まれていく。今世の俺は指先が器用らしい。投げる練習など一度もしたことはないが、思い通り飛んでくれた。フィリスは軽く目を見開いたものの、メイスを片腕で薙いで石を打ち飛ばしやがった。あとほんの1メートルほどまで接近しそのまま突っ込もうとしたところで、横からリホミが体当たりしてくるのが目に入り右足で急停止し元の位置へ下がる。意表を付けたのに軽くいなされてしまう。やはり三人相手は無理だって。どうあがいても勝ちようがない。小さくため息をついてそう語りかけようとした瞬間、ようやく俺の耳は後ろから聞こえてくる足音に気が付いた。急いで横に逃げようとするも、そんな時間は残っていなかった。振り返ると大きく振りかぶったメイスが俺の額に落ちてきた。
美女の膝枕はいい。おっぱいに抱かれるのもいいけれど、やはり膝枕は別格だ。素晴らしい。女性特有のむっちりとしたふとももの柔らかさ。。。そして今はなんと素足だ。川から上がったばかりなのか少し湿っていてあだっぽさがぐんと増している。思わず頬を擦りつけてしまう。一瞬きゅっと体に力が入ったのがわかる。ごめんよ。でも俺は本能には忠実な方なんだ。