2.9赤のアスター9
ババアが出て行ってからの毎日は、それまでとは少しだけ変わった。てっきり男たちもババアについていくのだと思っていたが、そんなこともなく翌朝なかなか起きてこない俺を起こしに来た。屈強な男のモーニングコール。割とマジで暗殺しに来たのかとビビった。とはいえ、毎日のぶつかり稽古は少しぬるくなった。ほんの少しだけだけど。そしてやさしいエルフのお姉さんが治療してくれる。正直悪くない。
授業はなんというか、俺のおまけ感がすごい。元々知り合いだったらしいサージャとウルダーがベッタリしていて、ウルダーがサージャに優しくいろいろ教えてやって俺はそのおこぼれを貰うような形だ。
ウルダーも俺にやさしくしてくれてはいるが、なんとなく奥に引っ掛かりがあるというか。。。何とも言えない疎外感のような、寂しさのような、そんな感情が湧きたってくる。俺にも思いのほかババアへの恋しさのようなものがあるからなのかもしれない。ババアも見た目だけはいいからな。
内容も、ウルダーはババアと違ってウィテカートへ憎しみのようなものはないようで、サージャも調子に乗ってガンガン使っている。俺に照準を定めてないからまだいいが、いつ心変わりして俺を狙いだすか。。。日々戦々恐々だ。
「五つの要素のうち、最も重要なのは何かわかるかしら?」
「おばあちゃんはバランスって言ってたよ!」
ウルダーの問いにサージャが元気に答える。俺はさながら空気ですよ。でも俺はそんなのでめげないくじけない。
「ババアは四つって言ってた気がするけど。。。」
「。。。。ちなみに四つは何だったか覚えてるかしら?」
「地、風、火、水だったはず」
前世の風水的な感じがしたのでよく覚えている。
「そう。そしてチルチオ。これが五つの要素よ。ちなみに、あの子は魔法の資質については話をしていたかしら。」
「ウィテカートは基本誰でも使えて、イーアは才能次第って言ってた気がする。あとはやっぱり何事もバランスだと。」
「ふーん。そう。」
興味なさそうな返事とは裏腹に、目を細めて少し口角を上げた。
「まあ、あの子の場合はそうかもしれないわね。」
ババアをあの子呼ばわりってこいつババアを超えるババアなのか?ババアズババアか。やっぱ見た目邪判断できないな。恐ろしや。
「それじゃあ一番大事なのってなんなの?」
サージャが逸れかけた話題を戻した。というかちゃんと話を聞いていたことに驚きだ。ババアの話はずっと寝てたのに。これが愛の力なのか。
「チルチオよ。これを知覚しているものはしていないものとは一線が引かれるの。言ってしまえば、特定の力が働くようになるのよ。」
これって要は悟り的なあれか?今後苦行でもさせられるのかい?無意識に体が震えてしまう。
「どうやったらそれを知覚できるの?」
「サージャはもうほとんど出来てるわよ」
そういってサージャを抱きしめ頬を擦り付け、さらに小さな体をまさぐっている。なかなかに眼福である。ああ、ありがたし。神様ほんと転生させてくれて謝謝。
「あなたねえ。。。」
俺の祈りは強引に中断させられた。見るとウルダーは半目で呆れている。まさかこいつも俺の祈りにケチつけるタイプの奴か。前にババアにいろいろ教えられたがそれはそれ、これはこれだ。あの光景を見て神に祈らないバカチンはそういないだろう。
それにしてもこいつもババアも人の頭を覗けんのか?だとしたら時間とかいろいろ制限を付けてほしい。母親同然な人たちにピンク色の頭を自由気ままに覗かれるとかあまりにもひどすぎる。
俺が一人でこの世界に憤慨しているとウルダーは、今日はもうお開きにしましょうかと言って、サージャを連れてとっととどっかに行ってしまった。
暇になってしまった。