1.3.2.1青きアジサイ1
仲間、いや今のところ共通の目的を持つ他種族が黒髪の子を拾ってからもう5、6年が経ていた。かつての黒髪の子たちはあそこまで下品な子ではなかったのだが。。。と少年からババアと呼ばれる女は片手でこめかみを抑えていた。数百年は軽く生きてきた自分にさえ下品な視線を向けてくるあの子をどうすればいいかと真剣に悩んでいた。
「個体差か。。。」
小さくつぶやきながら、あの子どもをこの村で引き取ることを決めたときのことを思い出す。かつて黒髪の子を引き取ったことがあるのを、直接知っているのはここを含めて3種族。そのうち1種族の時は途中でこの村で育てることになった。そして資料で知る限り1種族。今回も含めれば計5回。しかしなぜこのタイミングなのだ。最悪だ。
頭を抱えていると背後に気配を感じた。何者かと机に立てかけている槍へ手を伸ばし
、振り返るとエルフの長が来ていた。
「。。。。表から入れといっただろう。」
小さくため息をつきながら注意をするもエルフは全く聞く気なしといった具合で、机に積まれている紙の束を手にとっては声を上げている。
ドライアは説教を諦めて本題に入る。
「それで、何か見つかったのか。」
エルフはどこからか本を取り出してひらひらとドライアの顔を扇ぐ。
「ほらほら、すごい頑張ったのよ?」
「これは。。。黒髪の子の資料か。。。」
先ほどまでの悲嘆などどこかへ行ってしまった。わなわなと震える手で本を受け取る。しかし、先ほどまでとは打って変わってまた顔は暗く曇ってしまった。
読めない。これは先代から伝わってきた予知とは全く異なる書式だ。さらに紙についても今までに見たことのない質感だ。
ドライアはエルフに自分の胸につっかえる違和感を悟られぬよう探りを入れる。
「これはどこで手に入れたものなんだ?黒髪の子のものだと確信があるのか?全く知らない言葉だがこれはただの落書きじゃないのか?なんて書いてあるのかお前はわかるのか?」
落ち着いて聞き出そうと努力はするもの、ドライアの口は己の意思とは異なり矢継ぎ早に言葉を吐き出す。
言い終わり、エルフの顔に張り付いた微笑に気が付いてから己の失態に気が付いた。しまった、と思い必死に言い逃れの言葉を探す。
「フフフフフ。やっぱりあなたの知ってる話とは違ったのね。」
笑いながらドライアの言葉の意味を再確認する。これ以上言い逃れはできまいと、ドライアは神妙に頷いた。その瞬間、たかが外れたようにエルフはけたけたと笑い出した。ドライアの目にはその姿はいつもの数段気味が悪く映った。
「それで、どうするんだこれは。全く読めないのではどうしようもないではないか。中の文字も繋がっているし解読も何もそれどころじゃないぞ。」
話の筋に構わず笑い続けるエルフを咎めるようにドライアが言葉を放つ。
「あら、まだ気が付かないのかしら。この表紙の文字、一度目の黒髪がおかしくなる前に必死に書いていた文字に似ていないかしら?ふふふ」
ハッとしたドライアは両手で本を自分の眼のすぐ前まで持ち上げる。確かにそうだ。そうだそうだ。なぜこんなに重要なことに気が付かなかった。ドライアは自分の喉からも笑いがこみあげてくるのに気が付いたが、己の意思でグッとこらえた。今後の展望について詳細に考える必要が出てきたのだ。