1.11赤のアジサイ9
エルフの村が近づいてくると、村の入り口に何人か立っているのが見えた。エルフママたちにサージャだろう。何だか違和感があるが大人の輪郭たちは手を前に重ねて軽く会釈してくる。こいつらエルフたちもババア以外は俺を貴賓扱いする。よくわからないが女の子たちに丁寧に扱われるのは悪くないものだ。いや、とてもいい。
サージャはブンブンと音が鳴りそうなほどに手をこちらに向けて振っている。ついでに必死に何かを叫んでいる。
「。。。ィアがね!今度は私が隠れたらいいってねええ!だからねええ!そうしよってええ!」
どうやらババアがいい感じに言いくるめてくれたようだ。正直こいつの魔法は強すぎるから非常に助かる。何も殺そうとしてきているわけではないから、死活問題とまではいかないが痛いのが好きなやつはそうそういないだろう。
「よーし!隠れろおおお!」
俺もにっこにこな笑顔で声を張り上げて返事する。
サージャはキャッキャと高い声を上げながら走り去っていった。入口についたところで俺はさっきの違和感の理由に気が付いた。エルフたちの中にでかいやつが混じっているのだ。でかいというか、筋肉隆々な男たちだ。まさしく屈強な兵士と形容されそうな、筋肉でパンパンに膨れた胴体に、袖のない服から太い血管が浮き出た丸太みたいな腕が、半ズボンからは俺の体より太い脚が生えている。顔はエルフママたちと同じように整っているが耳はエルフママたちよりも少し控えめにとがっている。
てっきりエルフには男がいないものなのだと思っていたが、そうではないのか。いや、考えれば当然か。女がいるなら男もいると考えるのが自然だ。
数人いる男たちは皆濃い茶色の木の柄に黒く光る金属のついた、見るからに人や動物を殴打するための武器を肩に担いでいる。なんだか体を少しそらして見せびらかしているようにも感じる。あまりにも物騒だ。こんなもので殴られたら速攻であの世行の片道切符を切られることになるだろう。
これが一体全体何事なのかが全くわからないし想像もできないが、俺には関係ないことを祈るばかりだ。困った時の神頼み。俺は何もできない。ましてや今回の生についてはそもそもここがどこでどういう世界なのかもよくわかっていない。俺にできるのはトラブルに巻き込まれないことを神に祈るほかないのである。
エルフママたちの様子を見た感じ、ひとまず彼らも俺を敵視しているわけではないようだし、いつも通り村の入り口でアマルフィをエルフママに預ける。俺と離れることに少し寂しそうにはしているものの、彼らに対して威嚇していないし、警戒すらしていないようだ。むしろ少しうきうきしているくらいだ。ここに来てからいつもこいつは最初に餌をもらう。畜生にとってはご主人様の身の安全よりも餌を貰うことのほうが大切なんだろう。畜生。
アマルフィの頭を軽く撫でて別れて俺は教室として使っているテントに荷物を置きにいって、ババアのところへ向かう。ババアはいつも自分の家に籠っている。