1.10赤のアジサイ8
今日の朝食の主食は小麦で作られた真っ白いパンだ。何日か経ったものなのか少し硬いが、普通においしい。そしてでかい。普通に俺の顔よりでかい。ただ、出所がわからないのが少し怖い。どうやら木の生えたお姉さんたちが調達してくれているみたいなのだがどこから持ってきているのか。。。みたいというのは、木の生えたお姉さんたちはエルフママたちの英才教育が本格的に始まったあたりから顔を見せなくなったのだ。エロい目で見てるのがばれたのだろうか。いや、まだ俺が赤ん坊として通じるときだったからそんなことはないはず。。。ないよな。
木のお姉さんたちだけでなく、エルフママたちも俺が村に通うようになってからはこっちには全然来なくなった。だが、その辺からだんだんと時間が経つにつれてギー族と少し意思疎通ができるようになった。最初の方は大分驚いたものだ。山羊面が鳴き声の合間に単語っぽいものを話すようになったんだからな。最初の方は空耳だろうと思ったさ。よくある人間の言葉をしゃべるペット動画を見ているような気分だった。だがだんだんと単語をきちんと、とまではいかずとも支障ない程度までは話すようになった。まあ相変わらずギーギーギーギーとは言っているわけだが、まあ相当過ごしやすくはなった。にしてもこれは俺が聞き取れるようになったのか、それともこいつらが人間の言葉を喋れるようになったのかどっちなんだろうか。
主菜は焼き魚だ。これはさっき川で見かけた誰かが採ってきたものなのだろう。フライパン(これも恐らく木のお姉さんがもってきたものだと思われる)に油をひいてしっかり焼いて、さらにハーブで香りづけまでしている。この調理はギー族がしているものだ。前に調理しているところを見かけたことがあるが、めちゃめちゃシュールだった。本当にシュールだった。。。食欲が失せるほどに。それから俺はもう調理の様子を見ないよう準備している時間を水浴びの時間としたほどだ。
さらに葉物のスープがついている。いろいろな葉物とハーブを塩水で煮込んだものだ。割とおいしい。
そしてこれらの食事をギー族の観衆の前で食す。俺の後ろにはアマルフィが背を向けて寝っ転がっていて、それを俺は背もたれにさせてもらっている。ギー族の連中は背もたれになるわけでもないのにじっと俺の食事風景を見つめる。最初はただの興味本位のものかと思っていたが、毎日続いているわけだからその線は薄いだろう。マジで何なんだろうな。やめてくれと言えばテンパりながらも散り散りになっていくが、少し離れたところでそれぞれこっちをガン見する。マジで何なんだ。「あっ」と適当な場所を指さして引っ掛けようとしても、どいつも引っかからずに俺の方をガン見する。そのくせ俺が何かをこぼしたりするとすぐ誰かが駆けつける。本当に意味が分からない。なんか今の状況だけを考えると王様になったような気分にもなるが、俺はあくまでこいつらに拾われたわけであって、いわば働きもしない居候みたいなもんだ。そのうえでこんな待遇をされたらなんかの生贄にでもされるんじゃないかと不安になってくる。前に変な儀式をされた経験もあるしな。ババアに相談しても、
「ハハハハハっあいつらのことなんか誰もわかりゃしないよハハハハハ」
などとゲラゲラ笑いながらほざきやがって、どの口で疑っているんだいと笑い飛ばされた。まあだがババアのいうようによれば、危険な奴らではないようだからまあいいだろう。
そんなことを考えながら箸を進める。魚もきれいに食べきったタイミングで、アマルフィがぴくっと起きた。マジでこいつどういう感覚をしているんだ。自分の小屋に戻って、エルフの村に行く準備を整える。急いで準備をしないといけない。ついてきたアマルフィが俺のベッドに体を擦り付け始めた。もうベッドが崩壊目前だ。急いで昨日持ち帰ってきたノートの束の紐を解いて新しい紙を数枚追加して紐で縛りなおす。速攻で準備を整えてアマルフィを呼ぶ。
「ほれ、行くぞ!」
アマルフィは少し名残惜しそうにベッドを見ているが、俺は足でトントンと地面をたたいて早くいくぞと圧をかける。すると首を少し垂らしながらも大人しくついてくる。いい子だ。
顔に緒を結んで手綱をそこに結び付ける。軽く引っ張ってきちんとついていることを確認してアマルフィに飛び乗る。朝食の時とは違う雰囲気で俺のことを見つめるギー族たちに軽く手を振って今日も元気に登校する。