1.9赤のアジサイ7
少し寂しさを感じながらも俺も俺のやるべきことをやっていく。むしってきた竹の枝でアマルフィの毛を挟みそれをさらにアマルフィの毛で結んで簡易ブラシを作る。そのブラシを少し川で濡らして歯磨きを行う。アマルフィはすごい顔をして必死に魚を追っている。こいつ草食っぽいけど肉も食うのかな。山羊の顔で血まみれの魚を貪る絵面はキツそうだ。
「おーい。こっちにおいでー!」
アマルフィは結構満足したようで、全力疾走で俺の方に向かってきた。そう、全力疾走で、だ。興奮していることは完全に計算外だった。どうしようかとあたふたしている間にドカーンと俺の首に衝撃が走る。危ない。歯ブラシを咥えたままだったらマジで死んでいた。
これは流石に言ってやらなきゃいけないなと思ってアマルフィの方を見るも、クンクン小さな声をして俺の胸に頭を擦り付けている姿を見ると毒気も抜かれてしまう。頭をなでながら
「よしよし。。。でも今のは痛かったぞ。」
軽く注意するにとどまってしまう自分の決意の弱さに少しげんなりする。アマルフィは全く気にするそぶりもなく俺に体を擦り付けている。
だが落ち込んでいても仕方がない。気持ちを切り替えなければ。
「今日はお前も体を洗うぞ」
そういって体を少し離し、俺は桶に水を入れてぶっかけてやる。アマルフィは最初はびっくりしたようでびくっとしたものの、すぐに気持ちよくなったようで俺の方に体を傾けている。十回も水をかけてやったら次は俺の番だ。俺が水をかけるのをやめたらアマルフィは不満げな目を向けながら川に入っていった。
びしょびしょになった服を水を溜めた桶に突っ込んで、俺も櫛を持ってアマルフィを追いかける。頭を川に付けながら櫛で頭をとかす。一通りとかし終わったら次はアマルフィの番だ。気持ちよさそうに水につかっているところに近づいていくと、さっきの水浴びを切り上げたことに腹を立てているのか、体を震わせて水気を飛ばしてくる。愛情表現でやっている頭突きはこういう時にすべきものだと思うのだが。。。
激しいアマルフィシャワーを全身に受けながらなんとかたどり着くと、満足したようでまた体を擦り付けてくる。左手で撫でてやりながら程よく湿った体毛を櫛でとかしてやる。気持ちが良いのか痛いのか、時々グイグイと頭を押し付ける力が強くなる。
胴をとかし終わったので尻をポンポンと叩いてやると、ガバッと俺に乗りかかってきた。マウントボジションからのペロペロ攻撃だ。
餌もやってない、毎日乗り回すだけで世話はエルフ任せなのにこいつはマジでなんで俺にこんなになついているんだ?まあ好かれる分には構わないのだが。
アマルフィとのじゃれあいもひと段落つけば、すべきことは終わったので適当なところで切り上げて帰ることにする。そろそろ肌寒くなってきた。俺が水から上がろうとするとアマルフィもついてくる。さすが賢い子だ。空気も読める。まあ実際のところはこいつもさすがに飽きたんだろうな。
体にまとわりついた水を振りまきながら川辺へと歩く。その時、俺たちとは少し離れた場所に人影、いや山羊に乗った人のような影が見えた。ギー族が朝飯の準備でもしているのだろう。そう思うと俄然腹が減ってきた。
漬けていた服の絞りの程度もそこそこに、びしょびしょの服を身にまとって急いで来た道を戻る。アマルフィは乗れとばかりに伏せしてこちらを見てくるが、手綱なしにこの暴れん坊の背中に乗る勇気は持ち合わせていない。
ンメンメ言いながら覗き込んでくる賢い子を連れて村へ、いや朝食へと走って帰ってきた。